俺は。唯の人間生活を営む『男』だった。
本当に男だったし胸板はまっ平らだった。だけど今は女だ。
なんか体なんてふにゃふにゃしてるし、走るたびになんかこう…揺れるし!
でも、これになれてきた俺が一番怖い!
そんなこんなで、俺は今年のクリスマスをこの戦国で過ごすことになったのでした…
(物語風の語り方って何気にすっごく憧れてるんだけど!)
何をお願いするか
ソレは個人の自由
である
「あ、お館様おはよう御座いますー」
「おはよう。いや、丁度良いところにおった!」
「どうかなさったんですか?」
「『くりすます』は何か知っておるか?」
「クリスマス……ですか」
クリスマス?ああ、それはホラ、北国に居る髭の生えた不法侵入のおじいさんが
堂々と家に出入り出来る犯罪の日ですよとでも言って置けばよかったのかもしれない。
でも俺は正直に答えてしまってたんだなこれが。
12月ぐらいに皆でキリストのお祭りをする事を伝えるとお館様は、
皆でキリストの祝い事をするのか!それはまた大袈裟だ!と豪快に笑った。
「というのも、伊達の子倅から書が届いてな…」
「はぁ、あのエロ眼竜から?」
「うむ。とクリスマスが過ごしたいと書いてある。隅に置けぬのう」
「冗談はよしてくださいよ…」
エロ眼竜の名前を聞くなり、俺の表情筋は嫌な顔を作り出した。ていうか、良い顔できるかコレで。
ヤに決まってんだろ、だって過ごしたいって事は来るんじゃねーか。あーもう帰れ!帰ってくれ!
帰りの送料はちゃあんと払うから!出来るだけ大きなダンボールに入れて送り返してやるから!
でも、クリスマスはちょっと興味あるかも…
そう思うとなんだか悪い気もしなくなってきた。
アイツだって城主なんだからそれなりに節度もって準備ぐらいしてくるだろ。
クリスマスって言ったら幸村、どんな顔すっかな!やっぱ食べ物に結び付けるんだろうか。
…うわ、なんか楽しみになってきたかも知んないよ俺!いやだけど!いろいろ矛盾してるけど!
「奥州と仲を深める良い機会かもしれんのう」
「そうかもしれませんね…皆でクリスマスの歌とか歌って」
「くりすますの歌?ほぉ、その様なものがあるのか?」
「ええ、日本には無いような音調の歌なんです、随分陽気な…」
「シングルベール、ジングルベール、すっずっがーなるー」
「ああそう、そういう音程の…ってちょっとぉぉぉぉ!誰だぁぁぁ!?」
「おお独眼竜よ。もう参られたか!歓迎いたそうぞ」
「きょっおっはーたのっしっいー……おお、武田のおっさん!邪魔してるぜ☆」
「あれ?つっこみ(佐助)が!つっこみ(佐助)がいない!」
お猿の忍者もビックリしてご飯を吐き出す気配の消し様で現われた政宗は、
上機嫌にタイムリーな歌を口ずさみながらお館様にウインクをして見せた。
(目を閉じただけに見えるのは気の所為だろうさ!)
それにしても本当、何処から来たんだ?え?どこでもドア?
あの有名などこでもドアで来たって?じゃあ早く蒼い狸の時代に帰れ!蒼なら御揃いで満足だろ!
奥州軍ならダンディ小十郎サンに任せとけって、あの傷は何とかしてくれるぜきっと。
素敵な野菜国家とか作ってくれるって。
「Hey!久しいな!元気にしてたか?」
「元気元気ー、マジで本当とっても元気よ俺。勇気の鈴がリンリンリンだよ」
「HAHA!そりゃあいい、安心したぜ。あのうるせぇ主従どもは何処だ?」
いやはや政宗はそうやって普通に笑えばまともに見えるんだけどなぁ…。
せっかく見た目好青年なのに性格がウ○コなもんだから最悪だよなぁ、
プラス0マイナス500だよなぁ。レベル上がっても即死だもんなぁ。
そういえばまだ幸村たちを見てないな、
この前は俺の部屋に一斉集合してたんだが…。
幸村は朝早いから鍛練場にいるだろうけど、佐助の居る所は把握できない。
ま、忍なんだから仕方ねぇのかな?
佐助といえば、この前俺の部屋の天井裏に佐助がねころがってる夢を見たから試しに
女官さんの長刀でつっついてみたら天井から血が垂れてきてビックリした。
突き破れた天井から迷彩柄とか見えたけど、あれは佐助じゃないな。うん、違うよな。
「政宗が幸村たちを探すなんて珍しいな、何か大切な話でも在るのか?
だったら俺探してくるよ。あいつ等の居るトコはまぁ、判るし」
「話も何も、この奥州筆頭がPresentをもってきたんだぜ?」
「はぁ!?プレゼントォ!?」
「Ah、可愛い顔で驚くなよ…DOKIDOKIしちまうだろ?」
「BOKOBOKOにすっぞ?」
じゃアレか!お前が肩に引っ掛けるみたくして持ってるのはサンタさんの袋か。
でもサンタさんの袋は巾着型であってキャリーバック型じゃねーぞ?
さっきからお館様が興味深そうに見てたんだよ、その赤いヤツ。人指し指と親指で
引っ張ったりしてたんだよ。ちょっと頬染めて。(うわぁ可愛いとか思ってしまった俺)
「あ!政宗、小十郎サンは?一緒じゃないのか?」
「小十郎?俺の前で他の男の名前を出すなんていい度胸だな……?」
「あーもう話が進まねーんだよお前このヤロウ!昼ドラの帝王か!」
「Ouch!」
なに?こいつ夫気取り?意味わかんねーンだけど!俺の必殺パンチ(いや、でもね手加減したんだよ、うん)
をもってしても政宗はリングに沈まずに『照れてんじゃねーよ』とかのたまいながら
ホントウレシそうだ。キッモ!ついつい口に出しそうになったけど何気に傷つきそうだから
『キッ…キャリーバッグ!』と叫んだ。ばれてないばれてない。一休み一休み。
「小十郎は居ねぇ、なぜなら俺は今1人だからだ」
「見て判る。理由を言えといっとるんだ俺は。
Are you fool?」
「No.アイツが仕事させるもんだから無理に逃げてきた、You see?」
「おいおーいなんだそりゃ。とんだワンパク城主だなお前」
ほら見ろお館様が呆れて幸村探しにいっちまったじゃねーか。俺を置いてあの汗臭い可愛い
団子がよく似合う虎のトコにいっちゃったじゃねーか。いや、それはそれでもいいんだけど!
(今日殴り愛みてないし)
あっそうだお館様、できれば佐助も探しに行ってくだされェェー!エロ眼竜は俺がここで
食い止めておきますから!命に代えても!
政宗はよっこいせとか古臭い台詞吐き、サンタ・キャリー(命名)を床において
漁りながら、なにか悟ったようにして俺に話しかけてきた。
「いいか?本当に必要なものは近くに在りすぎて気付かねぇんだぜ?
お前は俺とこうやって普通に接している、つまりこれは俺がお前の夫だってことに、」
「あーそうか。だったら俺は今まともな突っ込み役が欲しいよ、佐助みたいな――」
「呼んだー?ちゃん」
ほ、ほんとに近くに在った……!
いきなり、しかもなんの音も立てずに俺の後ろに湧いて出たのは何を隠そう佐助だった。
この登場にはさしもの政宗もおっかなびっくりだ。ていうか俺が一番ビックリだ。
でも政宗の呆気にとられた顔も随分とびっくりだ。
つーか、すぐさま出てきたって事はさっきから天井裏にいたって事だよな?
なんで出てこなかったんだ、あのフライング猿…。
「佐助、何時からそこに居た」
「え?伊達の旦那がなにか語り始めた辺りから。」
「もっと早く来いよ馬鹿ヤロー!
佐助が突っ込まねぇから、俺1人でやってたんだけど!」
「えへへちゃんたら!その台詞、誘ってんの?食べちゃうよ」
「おい待て武田の忍!を喰うのは俺だ!啼かせンのも俺だ!」
「死ね!できるだけ人の迷惑に成らぬよう、猫のようにして速やかに死ね!」
唯一 の ツッコミ が 絶滅 した!
お館様も幸村も佐助もボケにまわったんじゃエロ宗と対峙するのはもう俺しかいねぇじゃねーかぁぁぁ!
まさか皆こうも簡単にアルツハイマーが始まるだなんて思って無かったあっはっは想定の範囲外だ。
「伊達の旦那は何しに来たのよ」
「伊達軍恒例のクリスマス会を甲州にも伝えるためにやってきた」
「嘘付けワンパク。小十郎サンから逃げてきたんだろ」
「Ha−n?生意気な子猫ちゃんだぜ…」
「くりすますねぇ…ま、わざわざ遠くからご足労有難う御座いましたっ、と」
まともに戻り始めた佐助はお館様が歩いていった方を見て、もう直ぐ二人も戻ってくるから待ってましょっか、
と言った。確かに、遥か先の廊下で喧騒が聞こえる。しかも少しずつ近づいてきている。
今日も柚木さんたちは忙しくなりそうだ。
「えー……?」
寝巻きだったから着替えてきた俺の目には普通はありえない光景が広がっていた。
今回はイベント夢だからつっこんだりとかそういうのは粋じゃないのかも知れねーよ?
いや、そうなんだろうさ、だからお館様とか佐助とかもアルツにやられちゃったんだろうさ。
でも頼むから、言わせてくれ!俺は今世紀最後のツッコミとして生き残る!
「戦国にクリスマスツリーかよぉぉぉぉぉ!」
絶叫した俺の目の先、広い庭先にはとにかくデカいモミの木がどぬーんと突っ立っている。
しかもなんかコレ可愛い飾とかつけてあるんだけど!雪降ってないのに雪が…
いや違う綿だ!やけにリアルだなオイ!
「俺のクリスマストゥリーには満足したかい?」
「やっぱりお前が作ったのか…」
後ろに立っていたのは政宗だった。
てか『トゥリー』って!発音良すぎて逆にキモイわ馬鹿野郎!
サンタ・キャリーな癖に変なところで忠実だなお前というワンパクは!
「皆準備も終わってるんだぜ、早く来いよ」
「準備?政宗たちでやったのか?」
「Naturally.大忙しだったぜ」
へぇ…政宗もまともに人の為になる事をする様になったんだなぁ…。
コレ、あれだぜ?小十郎さんが聞いたら鼻水たらして喜ぶぜ?
しかしながらヘイ!オープンザドゥーア!とか調子に乗っていう政宗の脳天にチョップを決めて
普通に開けた先の幸村と佐助に、俺はつい明後日を見てしまった。
お館様がまだ上座に座ってくれていたから、正気に戻ることは出来たけどな。
「メーリプルコダキリスティニマスでござる!」
「メーリプルコダキリスティニマスー!」
「一体俺に何を言って欲しいんだお前らは!」
なーにその『メーリプルコダキリスティニマス』って!
メリークリスマスの正しい名称?メープルシロップか?
しかも政宗が得意満面なのがすっげームカつく!おま、お前、間違ってんだぞ?!
メーリプルキュ……じゃない!メーリプルコダキリスティニマスって
全然違うぞ!?原始人の名前みたいだぞ!?
だから、そんな嬉しそうにするなって!お前なんか不憫だよ!すっごく不憫!可哀想!
それから!
「サンタさんの衣装はアミタイツじゃねーんだよぉぉぉぉぉ!!!」
「っはァ…、はぁ、はぁ」
絶叫と共に夢から醒めた俺の息は最高に上がっていた。
いまだ自分の状況がわからずにそこら辺を見ていると、俺は夢を見ていたことに気付いた。
それと同時に部屋に入ってきたのは、勿論、幸村たちだった。
また抱きついて、またふたりで土下座していた。
・・・・
「畜生。なんだよ…夢オチかよ…」
顔も洗ってすっきりしながら、俺は欠伸を噛み殺した。
そりゃーそうだよな、あんなこと、本当にあるわけねーもんな。
アミタイツとか、朝っから気持ち悪いもの見たぜ。
本当実感したけど、ツッコミは大切だな。うん。
「…あら?」
確か夢でもこの通りを通っていた気がする。そういえば、あのとき
俺の正面に居る女中さん、ずっこけて盆をひっくりかえして、
なんか変な音が出てたたよな…。
「きゃあっ!」
どてーん!すかーん!バイーン!
「(オイオイオイオイ!マジかよぉー!)」
じゃあ、あれは予知夢だったのか。そうか予知夢か…。
でも予知夢だったらなんとか回避できるかも知れねぇんだよな、あの最悪の事態を。
そうか!今日はたぶんクリスマスだから、キリスト様が俺にプレゼントをくれたって事か!
俺はやるぜ神様!俺はこの突っ込みの無い世界を変えてみせる…!
「、良い所に居った。聞きたいことがあるんだがな、」
「あ…お館様、おはよう御座います…」
「うむ、おはよう。して、クリスマスとは―――」
後ろから声が掛かった時、俺はもう笑うしかないかなーと、思ったのであった。
めでたし。めでたし。(ぜんっぜんめでたくねーよ!ばっきゃろー!)
神様!俺にツッコミの精をくれ!