「私が居たのなら、そんなことにはならなかった!」


立派な一人のくのいちなのに、頬を上気させプリプリ怒るかすがを、俺と佐助は 申し訳ない気分で見つめた。つーか、俺悪くないし。なんでこんな申し訳なくなってンの。 本当に申し訳なくなるべきなのは佐助だけだろう。そうだ佐助、もっと落ち込むがいい。 ごめんねかすが、とかほざきながら俺の尻に触れる猿飛佐助よ、もっと落ち込むがいい。 落ち込んだ勢いで人気も落ち込むがいい。




序章




上杉と戦をしてからもう一月ぐらいたつだろうか。 何故か分らないが打ち解けてしまった上杉軍と武田軍(もとい) は、再戦を間近にするなどという不穏な話が持ち上がることも無く、 両国とも安定した政治情勢を保っていた。此処一ヶ月は他の国との戦の話も無いし、 皆田畑を耕したり、武を極めたり、そんな毎日である。

佐助はじめ軍内の忍たちは、しばしば情報収集のために外に出て居た。 勿論忍だけが忙しいのではない。忍が持って帰って来た情報をまとめる役の人間も 忙しいし、そのどちらともから報告を受ける城主も忙しい。 まぁ、己を高める、という点では、確かに兵士も大変だったりするが。

そんな折、上杉から手紙が来たのだ。内容は偵察について。 最近気になる動きをする国が有るのだが、それは以前、武田のほうでも話に上がった 国であった為、一緒に敵情視察に行かないか、という誘いだ。しかも断ったら 『びしゃもんてんがまくらもとにたつ』のだそうだ。 つまりあんたが立つってか、どんなだ、と思いつつ佐助は書状を受け取り、溜息混じりに眺めた。 その隣には。書状には、今回の偵察にはも同行するようにとも書かれていた。 (謙信公のへの目の掛けっぷりがよくわかる)(へ、と銘打った塩まであった)

結局任務を承諾して、上杉の忍と待ち合わせをしている場所(結構暗い森の中だった) で待っていると、現れたのはかすがだった。 かすがは、自分が掴まってきた白い梟に興奮するを(すこし睨むようで)不器用だが、 それでも優しい目で見た後、佐助に何も無かったか問うた。佐助はそっけなく返事をするも、 かすがの視線の優しさを指摘したので、かすがはごまかすように、佐助をにらみつけるのだった。

そしてそれは、これからの作戦等を考えるために話し合おうとした時に発生した。


「そういえば、お前は忍では無いのに偵察に行けるのか
行きたくないのならば、私が謙信様に言伝よう」

「実は俺ね、一回行ったことあンだわ。あの戦の直前に。
なんか土地に慣れるとか、そういうの目的で、佐助と一緒にさ。」

ッチ、猿飛ごときが……それで、何処に?」

「(舌打ち!)三河、だっけか?あの狸が居るとこ」

「ちゃんと出来たのか?」(じっ)

「そ、そんなに心配しなくても…
大丈夫だって、まぁ、色々あったけど、」

「何!よし話せ、

「え、」

「大丈夫だ、何もしないから話せ」(ちゃ)

「その割にはクナイがこんにちはしてるんだが」


云々で冒頭に戻るのである。
かすがは息巻いて佐助に詰め寄る。


「お前なら変化させるのぐらい簡単だった筈だ!」

「え、俺様変化の術とか使ったこと無いなぁ」(にへら)

「…『はぁ…お前の顔など見飽きた…』」(ふぁさっ)

「ちょっとちょっと!何バサラゲージ貯めようとしてんの、かすが
落ち着けよ、『ま、ゆるーくいこうぜ?』

「小癪なっ…あと2,3回したらゲージが満タンになる。
そこで首を洗って待っていろ」

「甘いね、俺様のほうが速く満タンになるよ。
今朝ちょっとだけ御神酒飲んだモン

「お前等話が進まないんだが」


血管を浮べたによって、バサラゲージ貯め合戦は幕を下ろした。 (ていうか佐助、今朝何を飲んでたのかと思ったら、お前!) いやーゴメンゴメン、 との頭をひと撫でする佐助。かすがはその様子をちらちら遠めに見た後、 のそばに寄って、ちいさな声で、悪かった、と言いながら、 同じようにの頭をなでた。ん、と返事を貰って、驚きながらも僅かに頬を染める。 かすがはかすがなりにを可愛がっているようだ。


「もういい。の変装の手伝いは私がする。お前はそこで見ていろ」

「へぇ、あのかすががねぇ…めーずらし
いいけど、ちゃんを変な風にしたら俺様本気で怒るからね」

「安心しろ、爆弾兵みたいな感じにはしない


何気にとんでもない発言をして(ていうか俺、そんな選択肢、脳内にも無かった) (誰かを爆弾兵みたいにしたことが有るんだな)に向き直ったかすがは、 少し考えた後、いい案を思いついたのか、少し目をきらめかせた。 がその小さな差異に気付いた瞬間、もう、ぼふ、という音が鼓膜を支配していた。

普段あまり見ない現象に驚いて、きつく目を閉じる。
少しずつ開いていくと、違和感に襲われた。


「(視線が高い…?)」

「…」

「……」


周りから来る沈黙と視線に気が付いて、ふと2人の顔を見回そうと顔を上げた。

(…は?)

するとそこに居るのは、自分よりも少し背が低くなったかすが、そして 自分と同じぐらいの身長になった佐助。しかし両人に身体的な変化は無い。 だが2人とも何に呆けているのか、呆気にとられた表情のままだ。 一体何が…と、自分の体を見る。

そして、


「うおぉぉぉ!?なん、なな、なんだ、これ!」


絶叫。

見える限り、何もかも変わっていた。 女らしい曲線を持っていた手は骨ばった大きな手に変わり、 真横を向いて見た自分の肩は随分と成長している。 服の様子も変わっていた。 柿色の打掛に、渋い抹茶の着物。帯の位置は、腰。 恐る恐るふれた胸元は、ゆるやかな曲線を描く以外は全く平。 そういえば先刻の絶叫だって、耳に響かなかった。

完全に男になっていた。


「これ、かすががやったのか?」

「…」

「おい?かすが?かーすがー?」

「(はっ)あ、ああ、そうだ」

「へぇ、凄ぇなっ」

「…!」

「?」


が笑いかけると、かすがは軽く肩を揺らし、そうか、とそっけなく 言ったあとにそっぽを向いてしまった。見下ろされるのが嫌いだったんだろうか、 だったら最初からもっと背を低くしていたら良いのに、と幾分か申し訳ない気分になる。 だがそれも長続きしない。久し振りに男になった(もどれた?)こともあって、 今のはハイテンションだ。

肩を突付かれたと思ったら、佐助が此方に何かを渡している。手に取ってみれば、小さな 鏡だった。潜入先では露天商をするといっていたので、これも商品なのだろう。 (ちなみにかすがは簪売りだ)何に使うのか、という意を込めて視線をかえせば、 ニコニコした顔に言われる。


「ねぇちゃん、自分の顔見てみなよ」

「顔?わかった」


言われるがままに開いてみてみると、そこには。


「おお、俺が居る」(小声)

「あ、やっぱりそうなんだ?」(小声)

「うん。偶然ってすげぇ、久し振り、男な俺」(ぺたぺた with 小声)

「ねぇねぇ俺様さ、ちゃんが男でもイケるよ
ていうかなんか今寧ろ物凄い興奮してるんだよね
ね、その開けた胸板誘ってんのちゃん」(終止笑顔 with 小声)

「…か、かすがに訊いてくれ」


一応、製作者に全ての責任を転嫁してみた。

それからかすがは暫く目線を合わせてくれなかった。 何故か分らずに首をかしげていると、佐助に隣から、『ちゃんが予想以上に格好よく なっちゃったからだよ』と言われた。それを必死で弁解するかすが。しかしとうのは 『格好いい』を聞いてハズカシそうに目を泳がせたので、今度は佐助だけでなくかすがまでもが 100Mぐらいのクマさんのぬいぐるみを見るような、そんな肉体と見た目のギャップに困るような 状態に陥った。(2人まで赤くなった)

それから少し立てば、かすがもやっと慣れてくれたようで、佐助とかすがの間にが並ぶような形で 進んでいくようになった。作戦ではないし、なにか意図してやったことではない。かすがは の面倒を見ると言ってきかない、佐助はと手を繋ぎたいといってきかない。 だからだ。木々の鬱蒼と茂る道を、3人で進んでいく。


「な、この薄暗いの、いつまで続くんだ」

「んー?どのぐらいだっけ、かすが」

「私に聞くな……あと少しで着く」

「おっ、だったら俺達も化けとくか」

「そうだな」


…ということで、ボフボフ音が聞こえて、煙が晴れた頃。目の前には 2人の物売りが経っていた。全体的に見れば全く別人である。 しかし細かいところ、例えば目元や背格好はあまり変わっていないように思える。 まぁ、たかが隣小国の視察であるし、そこまで丁寧には化けていないのだろうが。


「そうだ佐助、この前はどうして変化しなかったんだよ」

「だって出来るって知ってたら、絶対にあんな格好も口調もしなかったでしょ?
可愛い着物着て可愛い口調で、俺様あのちゃんに何度お世話にn

「てぇぇぇぇめぇぇぇぇぇ猿飛サスケンス劇場ォォォ!」

「あいたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


只今新しい瓦版が入りました。
甲府在住、猿飛佐助さんの米神の毛髪が何者かによって引き抜かれた模様です。
現場には毛髪しか落ちておらず、第一発見者の妙に色っぽい男性は『さぁ…気がついたら 抜けてましたね、なにかあったんですか?』と証言しており、名探偵湖南を呼ぶべきではないか との声も上がっております。


(真実は、いつもひとつ!)

(どこを見ていっているんだ、

(2カメ!)


□□□□□□□□□□


そんなこんなで3人とも変身したのだが、今、は1人で森に居た。
理由は簡単。なんか、尿意を催したのだ。


「いやー、男に戻ってからのトイレ第一号だなこりゃ
やべ、感動してきた。今日という日を記念日にしよう。」


意味もなく(ばっきゃろ!あるっての)感動する。元通りになった (奇跡の如き偶然である)体で着物を直すのが うまくいかず手間取ってはいても、既に用は足し終わっている。(流石に 便所の事まで描写するわけにはいかねえ。)2人を待たせている以上、 さっさと帯紐を締めようとした。

その刹那。


「お…?」

(以下は主人公の台詞のみでお楽しみください)

「は!?ちょ、っえええええ!!?」

「いや、なんで此処にアイツが、っていうか、ええええええ?!」

「…ゆ、勇気か、勇気が必要なのか…?」

「俺は無敵俺は無敵……」(ブツブツ)

「………」

「あのー…俺に何か………あおぶっ


そして誰も居なくなった。







(本編へ続く)