「伊達政宗の誕生日だったんだってさー」
「それはめでたき事でござる!何か差し入れねばな」
「へぇー…じゃ行ってくる!佐助、幸村、お館様に言っといて、俺は友達思いだって」
誕生日ってさ、なんかこう、祝ってもらいたいものじゃないか?
自分の中では期待なんかしてなくっても、心のどこかで自分が生まれた日ってのに『オメデトウ』って
言ってもらいもんじゃないか?少なくとも俺はそうだ。まだ此処にきて一年も経ってないから
そんな感覚も薄れてきてたけど、こいつ等に祝ってもらえたのなら、俺はきっと幸せな気分になるに違いない。
その面、ホラ、政宗ってなんかそういうの少なそうじゃん。
ていうかぜってぇ居ねーよおめでとうパーティする人とか。
ていうか十中八九そんな友達いねぇよ。
「え、ちょっとちょっと、ちゃん!?」
「殿ーッ!?」
とういことで優しい俺はアイツを祝いに行くのだ。
貴方の生まれた日に乾杯
『十中八九そんな友達いねぇよ』
米沢城の門前。俺は自分の推測を裏切るような現実を目の当たりにして少し…いや、かなり脱力した。
そうだよな、政宗って友達は居なくても家臣が沢山居るんだよな。九十九里浜のヤンキーみたいな家臣が
ナウくイカした雰囲気で馬を走らせるんだよな。しかもその馬も盗品なんだよな。
十五の夜なんだよな。一体誰が話題の中心の十五歳なのかは、七不思議のひとつなんだけど。
城の中からは随分と元気な声やら拍子やら太鼓の音が止むことなく響いていた。
「ええぇー…なんか萎えるなぁ、こういうの」
だって俺、一人でケーキの蝋燭消してるような雰囲気の政宗を祝いに来たんだもん。
こんなドンチャンで楽しそうな伊達軍にプレゼント持っていってもなんか場違いっていうか…なんか、なぁ?
もう帰っちゃおっかな。途中で軍神さんトコに行って遊んで帰っちゃおうかな。
「おい娘、そこで何してんだ」
「え、俺はその…」
「お前は…あのときの、」
「あ!片倉サン」
奥州に来て数刻。早くも俺はやくざに遭遇した。
片倉サンが正門の前で煩悶する俺を見つけたのは当然のコトなのかもしれない。
馬に乗ったままで体をくねらせて『萎える』とか言ってる町娘が居たら誰だって怪しむだろうし、此処は
奥州伊達軍の米沢城(しかもちょっとおめでたいムード)なのだから厳重に警戒してるよな。そりゃあ。
いや、でももし俺の顔が覚えられてなかったのなら掴まって、拷問とか、されてた、かも……
…という心配も何処吹く風。
片倉さんは俺が馬から下りるのを待っててくれたし、抜刀もしなかった。
唯ちょっと目線が怖いが…これは生まれつき、だよな?
「ほぉ…政宗様に会いに来た?何をしにだ」
「なにをって、祝いに。政宗、誕生日なんだろ?」
「そうじゃねぇ。『様』を付けな、『政宗様』だ。
いや、だが…そりゃあ殊勝な心がけだな。悪かねぇ。」
片倉サンは兄貴っぽい動作で、俺の頭をクシャっと掻き撫ぜる。
この人は立ち振る舞いがなんか格好良い。いや、元から格好良いとは思うよ?
最高にヤーさんな見た目で近づき難い感じだったのが一瞬で身近に感じたってこと。笑顔って凄ぇな。
でも政宗が毎日この人に身の回りのコトを注意されているんだと思うと流石になんだかご愁傷様だ。
だって片倉サン起こると絶対怖いもんよ。
「俺も丁度帰ってきたところだ、ちょっと待ってな。中に入れるようにしてやる」
俺の馬の手綱を持って片倉サンが一声、『開けろォ』と呼びかけると中に居たらしい見張りが
直ぐに門を開けてくれた。
ていうかお前等俺が此処に居るのわかってたんだろ!最初から開けてくれよ!俺、女の子だよ?!
悶々とする俺を尻目に敷居を跨いだ片倉サンが、
俺を呼びながら、これまた滅茶苦茶に渋くて格好良い笑みを浮べる。
何、何この人!なんか日本の仁侠映画に出てそうな渋さだぜ!?
お前、もうハリウッド行けよ!(…というと片倉サンは『はりうど?なんだそりゃ、野菜の名前か?』と
答えた)(や、野菜のウドじゃねーよ!天然かアンタ!)
「いやー悪かったな。途中で部屋抜けさせちまって」
「No problem.丁度良かった」
俺の目の前の隻眼の男――政宗は案の定宴会の輪の中心に居た。
周りの家臣は殆どが悪酔いしていて、殴りあう、歌いあう、更には抱き合う等の暴挙にでているのに
当の政宗は其処まで酔っていなかった。酒を飲んだと言っても嗜む程度に置かれた熱燗が数本、
それも片手で数えられる程度転がっている位で、小十郎が政宗を呼びに言った時の事を、
政宗自身、助かったと思ったぐらいだ、と笑いながら語った。
「良かったのかよ?政宗を祝っての宴会なんだろ?
誕生日の主役が居ないって、度の入ってない酒みたいじゃん」
「No,No.今のあいつ等はどんちゃん騒ぎがしたいだけだ」
ていうかアンタの方がずっと良い。Un−…いや、アンタが良い。
小十郎に用意してもらった別室に移動して、気付けの水を口に含みながら政宗は息を吐いた。
こいつ…よくもそんな恥ずかしいことを…!
でも随分疲れてるみたいだ。
まぁ、障子の陰に隠れていた俺にでも解ったんだが、結構きつめなアルコール臭がしていた。
(ずっと前の幸村よりはマシだったが)雪国は酒の度が強いとか聞いたことがある。
すぐに酔いが廻るのかもしれない。
政宗は身を乗り出して、随分と楽しそうな顔で俺のほうを見る。
嬉しそうな…そう、玩具を目の前にした子供みたいな視線が俺を目を捉えた。
う、う、うれしいじゃねーかこの野郎。なんか訪問を喜んでもらえるって嬉しいね!
「それで、今日は?俺を祝いに来てくれたんだろ?」
「おうよ!ちょっとまってろー、今出すから」
「出すゥ?」
「ん。お前に一杯プレゼント持ってきたんだ」
これ、お前、重かったんだからな!馬も疲れて『こいつ、もうおろしたい』的な目で俺を見てたんだからな!
あと片倉サンも怪訝そうに俺の事見てたんだからな!
「はい1つ目」
「これは…団子?」
「幸村が大切に取ってたやつ。俺が勝手に持ってきたの」
「Hmm…俺のためにか?」
「それ以外に何がある?はい、2つ目」
「酒?(しかも樽…)」
「お館さまに言ったらくれた。美味しいんだってさ!」
「Hey、だったら一緒に飲もうぜ」
「あとでなー。はい、3つ目」
「………What this?」
「ひょっとこ。俺が買ってきた」
「……ひょっとこ?」
「お前のためだけに」
「OK.大切にする」
「そんでもって…」
「まだあるのか」
「あるともさ」
この後もプレゼントの合計17個に及ぶ鮮烈な登場を繰り返して、やっと俺の持って来た袋は
ぺッタンコになった。というか良く見たらよく入ったなこんな小さい袋の中に。
本当、樽とかどうやって入ったの一体。
「以上!」
俺がこの台詞を言ったころには政宗の周りは不思議な物体に占領されていた。
新しい眼帯、
小奇麗な装飾品、魚の干物、毛皮の帽子、薬草、おにぎり、草、岩…
確かに、俺でも何で持ってきたんだろうって思うようなものがあるけど
政宗は全部嬉しそうに受け取ってくれた。(ひょっとこをのぞく)(何でだ政宗!!)
あー、いつもこんな風に普通の好青年なら間違いなくこの戦国の中で一番仲良くなれた気がする。
勿論幸村たちが嫌いってワケじゃないぜ?
欠点があるからあるからこそ人間は素晴しいとか言うよ。言うけど、限度があるよな。
「よし、じゃあプレゼントも渡したことだし宴会に戻れ政宗」
「No way.此処に居る」
「我侭言うなよな。待ってるかも知れねぇだろ」
「あの席は小十郎に任せてる。心配しなくても誰も来やしねぇよ、You see?」
「誰か来るのを気にしてるわけじゃなくてだな…、ッ!」
ちょっと目線を外しているうちに政宗はありえないぐらい近くに来ていた。
顔を戻した瞬間に目の前一杯に広がる伊達政宗の顔。
幾ら俺が男だからと言ってもコレは心臓に悪いぞ!
だって政宗は女顔負けの美顔の持ち主だ。
だ、だ、大体、目の保養は前方1Mぐらいであって、ゼロ距離っていうのはなぁ…
としているところで、政宗は口を開く。
「Thank you,」
「…は?」
「来てくれただろ、此処まで」
「あ、あぁ、そうだ。そうだな、うん」
「だがまだ貰ってねぇプレゼントがある。Can you see that?」
「え?数えてみろよ、17個あると思、」
口元が何か柔らかい物に阻まれて、俺はそれ以上言葉を発せられなかった。
だがそれが何なのかは直ぐにわかった。解らざるを得なかったと言おう。
だって政宗の顔が俺の前から離れてないんだから。
「ん、っ」
軽く俺の唇を啄ばむような動きをしたあと、ソレは直ぐに離れていった。
その代わりに全体重といっても良いぐらいの圧が俺に掛かる。それに堪えかねて後ろに下がると、
頭の後ろに手が廻り、引かれ、今度こそ確実に認識できるレベルで唇が合わさった。
苦しくて、細めた視界に居た政宗の目は薄めていてもわかるぐらいに妖艶にぎらついていた。
乱暴に喰らい付く様にして重なったと思いきや、ずいぶんとゆっくり俺の口腔内を
荒らしているみたいだ。ざらつく表面が俺を見つけて追いかけてきて、必死に逃げ回っても
結局は掴まって、二匹の蛇みたいに揉みくちゃになる。
苦しくなって、視界が涙で霞んだ。
息が出来ないわけじゃない、唯、する暇を与えてくれないんだ。
窒息死させるつもりか!新手の房術か何かか!
「ん、んっ、んー!」
殆ど押えられたような状態だし息も出来ないしで、とにかくどうしようもなくて
政宗の胸元辺りを握り締めていると、ふと暖かさが俺の手の平に被さった。
ぎゅ、と握られる。これ、政宗の手だ。安心しろ、とでも言うみたいに、気遣うみたいに
俺の手に触れている。(そんなにするぐらいなら口を離して欲しいんだが)
やっと口が離されたときには俺はもう、三途・リバーを見かけていた。
政宗は息が出来なくて喘ぐ俺の頬を、眼を細めどことなく愛しそうに撫でた。
くずぐったいが、まずは酸素だ。俺の肺には今大量の二酸化炭素が横行している。
なんとか酸素を、酸素を…オキシゲーンを…
「…」
「え、ンな、…う、ぁ」
そうしていたらまたもや敵襲。
俺はもう何が何だかわからないままその敵襲を受け止めた。
だが大問題だ、酸欠、相手が政宗、薬草が俺等の下敷き。
最悪の3元素を持ったままで緩慢な波に飲まれる。
「んー…!ま、まさ、む、」
「Make it good」
「ム、リ…ッ」
何度も何度も角度を変えて、そう、桃を食べる時みたいに。
俺の口の何がそんなに魅力的だかは知らないが、政宗は息1つ乱さずに
俺にくらい付く。いつの間にか俺の腰にも手が廻っていて、頭と
腰でガッチリとホールドを決められた体勢のまま、俺は食べられる桃で在り続けた。
果たして桃を食べる時にこんなテクニックが必要なのかと思うぐらいの
技量が俺の口腔で披露される。俺はたまったもんじゃない。
「!ちょ…や、だ!」
腰に手が廻っていた時間なんてのはほんの少しで
気が付けば俺は完璧に下にしかれていた。いつもなら何とか
出て行けるところだが、如何せん俺は疲れきっていた。
馬に乗ったのも疲れたし、今こうして呼吸困難なのも原因だよな。
だから逃げられなかったんだ。こうやって触れられても。
「ンのっ…こら!触ンな!」
「…Ha、聞けねぇ相談だな」
「!」
着物の下、地肌に直に俺の物で無い生体の暖かさが触れる。
俺の腰を支えていたはずの政宗の手が移動して、俺の内股(しかも結構ギリギリのライン)(当社比で)
に触れていた。触れるというより擦るというか、捏ねるというか…どう表現しても卑猥になってしまう
ような手つきで入念に俺を解きほぐそうとする。しかも微妙なところで優しくなく、強く乱暴なところが
また、気を抜けない原因でもある。
「政、宗っ」
「What?」
「ッア!…こ、の野郎!ふざけた事言って無ぇではな、せっ」
「Ah、そうか。So r r y
でもな、アンタの此処ンとこが俺に吸い付いて離れてくれねぇんだぜ?」
「ヤラシイ良い方すんなっ!ばっ、離れろっ!」
「おーおー、キャンキャン吠えてPrettyな子犬だ」
こ、殺す!こいつはが殺すっ…!(蘭丸っぽく)
俺を『キャワイイ子犬ちゃん』だと言ってのけた後政宗はまた俺にキ、キスしてこようとする。
幸いにも両手が自由だったからその顔を両手で阻止すると、政宗は案外普通にキスを諦めて、あろうことか
俺の首筋に顔を埋めた。至近距離に政宗の、少し酒の入った匂いがする。なんだか古書のような古惚けたにおいもあった。
城主なんだ、何か古書で仕事したりとかは在るかもしれないが、
まだ未成年なのにそういう一国の主とか言うのはちょっとすげぇ…って、感心してる場合じゃない。
(この台詞っていろんな漫画で見るよな)
「ま…まさむね、サン?」
「俺のマークを付けとかねぇとな」
首にまた、あのザラリとした感触が走り、俺は思わず目を閉じた。
口の中と体表皮とでは随分と神経の走りが違う所為なのか、全く感覚が違う。
キモチ悪い、っていうか、水っぽい?これは政宗がわざと音を立てているのかもしれないが
俺の首筋を這う舌はちゅる、と音を吐く。
「ぃっ…」
そして次いでチリッとした痛みがその箇所に発生した。その衝撃に多少俺の脚が震えたのか、
腿の辺りを撫でていた手が止った。そしてその手は上に上がってきて、顔の前でクロスした俺の両手を
攫っていく。男女の差で此処まであるのかと思えるぐらい大きくて骨ばった手が俺の両手首を掴んで畳に縫いつけた。
…本格的にやばくないか俺。
「OK.良い華が咲いた」
政宗は埋めていた顔を少し上げ、俺に刻んだ作品を見た後満足そうにそう言った。
「。アンタの体中にこの華を咲かせようぜ」
にやりと妖艶に笑んだ政宗の顔が近づく。如何しよう、如何しよう俺。
どうやって逃げよう。政宗は本気だ。絶対に本気だ。100%あるなら間違いなく400%本気だ。
これ以上コトが進んだら俺、多分舌噛み切るしか無いと思うんだ。
万事休す!かくなる上は…
「なぁ、政宗…?」
「何だ?………うぉっ」
「少しだけこのままで居て」
俺は今の精神状態で出来るだけ優しく、女でいう『誘いに乗った』ような声音で政宗に話しかけた。
そんな俺が政宗は意外だったのか、形の良い眉をひょこ、と上げて俺の方を見る。
だが俺は同時に両手の拘束が弱まった機を逃さず、政宗の首に両手を巻きつけて
さっき芽ーがー出ーてー膨らんでー花ーが咲いた首元までひきつけた。
そして為るだけ俺のコトだけ考えているように、髪の隙間から見える耳に口を寄せて一言。
「政宗、ゴメンな?」
言い終わったのと同時に、政宗の下半身に俺の膝がのめり込んだ。
「。今日は俺の部屋で眠れ。見張ってやる」
「はぁーい。有難う片倉サン」
「小十郎でいい」
「こじゅんろうさん」
「…片倉で良い」
結局、俺の反逆が決まってリングのゴングが勇ましく鳴り響いた30秒後ぐらいに片倉サンはやってきた。
最初は倒された時の光秀みたいな格好で僅かに震える政宗を見て何事かと俺に問い詰めようとしたが、
俺の服の乱れ様と明らかな首のうっ血の華を見て、標的は変更された。可哀想に政宗は激痛に苛まれながら
正座で片倉サンのお説教を受けたようだ。
「今日はうちの筆頭がとんでもねぇ真似をして、すまなかったな
その…なんだ、お前、操は大丈夫か?」
「操って片倉サンあんたね」
布団に入り込んだ俺を片倉サンは真剣を片手に見張ってくれている。
でもこれ俺のほうが殺されそうでけっこうスリリングだ。
「もう眠れ。明日は甲府に帰るんだろう?」
「そんなに急いでは無いけど…わかった。寝る」
「それがいい。政宗様が来た時は俺が食い止めるから安心しな」
「政宗は敵兵か何かか?…あの、片倉サン」
「おぅ、何だ」
「政宗が来たなら伝えて欲しいことがあってさ」
伝言を伝えたあと、俺は急激な睡魔に襲われた。きっと今日は沢山の心労および
『身』労に苛まれたからだと思う。俺が思っていたよりもずっと俺の身体はつかれてたみたいだ。
良く知らない土地ではあまり眠れないほうなんだが誘われるがままに眠りに落ちていく。(因みにその原因が
片倉サンがわざわざ焚いてくれた香だったってコトには明朝になって気が付いた)
レム睡眠寸前に、頭に触れた手の感触と一緒に、片倉サンの声が聞こえた。
「政宗様が喜ぶだろうな」
『誕生日おめでとう、政宗。
産まれてきてくれて有難うな』
(お前にとって今日が特別大切な1日になったのなら、俺は嬉しいよ)