「…」
「なーに」
「いや…なんでもねぇ、…」
「だから、なーに」
「……なんでもねぇ」
時には何の話題もなく
日差しが暖かい縁側で2人で寝転がっていると行き成り名前を呼ばれて、は
閉じていた瞼を開けて返事をした。けれど、煮え切らない相手の応答にまた眠気が帰ってきてしまって
1つ欠伸を溢すと、ちょっとした衝撃とともに腹の辺りに人の形をした寄生虫がくっ付いていた。
「」
「なぁに政宗くん」
「なんでもねぇ」
「ふーん、そう」
同じことばかり繰り返す大きな子供の前髪は日差しに透けて、原色よりもずっと茶色に見えた。
触ってみると、ほんのり日差しチックに暖かくて、サラサラ。政宗がこそばゆそうに身を捻る
まで、はずっと髪を梳いていた。
そのあとも政宗はの腹に顔を押し当てたままじっとしていた。たまに居心地が悪くなって頬擦る様
な仕草をするのが、かわいい。(彼には似合わない言葉だけど)
「政宗くん」
「I'm sleepy.少し寝かせろ」
「仕事は?」
「あとでやる」
野暮ったげに手をヒラヒラさせると、政宗はまたの腹元に顔を戻した。が
抵抗しないのを良い事にしたい放題である。
(あったかいなぁ)
はされるがまま、抱き疲れたままで目を閉じた。子供体温とでもいうのだろうか、
今自分にくっ付いている大きな子供は驚くほどに暖かい。(お日様の所為でもあるのかもしれない)
猫のように丸まったその背はまだ息をするのに合わせて大きく動くので、どうやら眠ってはいないようだが
安心しきっているのはその体勢から簡単に見て取れる。
「私が間者だったら、政宗くんはとっくに殺されてるね」
「が間者だったなら、抱きつかせる前に殺してるはずだろ?」
「ふふ、それもそうだよね!」
呟いたはずなのに、にゃんこな政宗には聞こえていたようで、腹元に顔を埋めたまま
もごもごと返事をした。はそれが嬉しくてもう一度頭を撫でたら、子ども扱いはNGだと
言われた。(散々甘えておいて!)
「政宗くーん?」
「What?」
「なんでもない」
「…Ha、そうか」
「あのね政宗くん」
「…」
「やっぱりなんでもない!」
ひどく無意味、だけどなんて楽しい!
こうしてのんびりしていられる時間が最近なかったので、もしかしたらとても貴重な瞬間なのかもしれない
とは思ったけれど、だからといって何か特別なことをしようとは思わなかった。
それよりもこうして何か話す話題も上手く見つからないでだらだらしている方がずっと
楽しい。
それに最初に気がついたのは政宗の方だったに違いない。
(だってはこうして最初に政宗が言っていたことを真似しているのだから)
意味もなく愉快な気分になっては変に笑いながら、自分の着物の中に半分うずまりかけた
政宗の頬を探り当てて、幾分か冷たい自分の手で覆ってみせた。
「?」
「政宗くんは夜寝るときに抱き枕にするといいね」
「What meaning?」
「とってもあったかい」
そういって、えへへと笑うと次の瞬間には、片方しか付いていなかった筈の肩が両肩ともに廊下に
くっ付いていた。そして腹元に居たはずの政宗は自分の目の前にいる。
押し倒されたと解ったのは少し経ってからだ。
今更焦って暴れても無様なだけである。(それにほら、ほかの人に見られたら恥ずかしいじゃない?)
が政宗くん?と極力笑顔で問いかけると、視線の先の政宗は意地悪な、つまり元来の
笑みを浮べた。
「俺が抱き枕だけで満足する男だと思ってんのか?」
「やだな。例え話で欲情しちゃったの政宗くん」
「男なんて皆そういうもんだ。」
「のー」
「発音が違う。No、だ」
「なぅ?ぅのう??……いいよ私異国人じゃないし」
「(…)まぁいい。俺がじきに教えてやるよ。手取り足取り、な」
「ふーん…じゃ今教えてくれれば良いじゃない?」
「それもそうだな。Are you ready?」
「Come on 政宗」
「O.K.いい発音だ」
オトナな雰囲気を作るようにして猫の挨拶みたいにして鼻をすり合わせると、至近距離で視線が絡む中で
どちらとも知れずに笑いが零れだした。(慣れない事って、やってみると凄く滑稽なのよ)
拍車が掛かった笑いはその後も止まなくて、2人とも縁側に大の字、もといは背伸びで
倒れこんで笑った。(余談であるがこういうところが在る所為で家臣から
『幼子の様な夫婦』と言われているのを彼等は知らない)
「そんな顔で『あーゆーれでー』って!あっははは!」
「ククク…あー腹痛ェ!」
つかれて吐いた溜息も同じタイミング、そんな些細なことでさえも笑える。
また大げさに笑いそうになるのを抑えながらは身を起き上がらせて、仰向けになっている
政宗の胸の辺りに頭を添えた。そっと乗せられる大きな手が心地良い。
「やっぱりあったかいね」
その台詞を皮切りにまた沈黙が訪れた。心地良い沈黙の中でも政宗も目を閉じて、光合成をしない
肉体が徐々に温まっていくのを感じていた。でも動かずに居るのは熱量を捕獲するためとか言う理由じゃなく
、少しでも触れているのが幸せに感じたから。(少なくとも、私は)
「…なんか」
「……」
「政宗くん」
「Hun?」
「すきだよ。だいすき」
「I know.俺もだ」
「…政宗くんが私を思う以上にずっとすきだよ」
「じゃあ俺はの100倍好きだ」
「じゃあ私は120倍」
「150倍」
「…300倍かなぁ」
「1000倍でどうだ?」
「もう!じゃ1万倍」
「それなら俺は1億倍だ」
「…もう寝る!政宗くん枕になって」
「ハイハイ」
「ハイは一回…でも好きだよ」
「わかったからもう眠れ?You see? baby」
「いえーす。もう寝マース」
某日昼。
伊達名物夫婦は今日もラヴラヴでイカスカンジでした。
(伊達家臣、原田宗時の日記より抜粋)