元親が帰ってきた!ずぅっと(ううんちょっと前から)戦に行ってた元親が帰ってきた!
雪が降ってたときから、焼き芋を焼けるぐらいに時間が過ぎたんだよ!
お土産は竜の爪って言うけど、そんなの要らない!ていうかもっと
食べ物が欲しかった!それから…
「長宗我部元親でアイウエオ作文!」
「あァん?馬鹿にしてんのか?おかえりなさいはどうした」
「はい!おかえんなさい元親!」
「おう。ただいま」
ちょうそかべもとち。
疲れきった元親は見上げ加減に私を睨み上げたあとにお母さんみたいにして
言った。それで私はちゃんと言って、ずっと会いたかったって言うと、元親は
もう一度ただいまといいながら私の瞼に口付けしてきた。
正直くすぐったい。海に入ったときの、あの海藻みたいにくすぐったい。
それがおわると元親はにぃと笑んで(それが彼の普通の笑い方なんだけど)とんでもないこと言う。
「会えない間、何してた?」
「女中さんたちとお掃除したりしてたよ!」
「どうする。夕餉が始まる前に俺と運動でもするか?」
「戦明けの元親はいつも乱暴なのでいやでーす」
「だったら今日は優しくするから、な?いいだろ?」
「…前もそう言ったじゃないかい元親君は」
半兵衛君の真似をして言うと、元親は私の腰に手を回したままで渋い顔をした。
戦明けって言うのは男の人は盛っちゃってるんだって、佐助君が言っていたけれど、
どうもそれは本当のよう。だって元親盛ってるもんね。春先のにゃんこ見たいに盛ってるもんね。
駄目って言ったのに、この前の戦明けの海は大荒れ(元親が格好つけてこう言ってたけど
全然上手くないと思う)だったモンね…弱肉強食で!
「ね!これ作ったの!元親のアイウエオ作文」
「あいうえ……本当に作ったのか?」
「ん!」
あのね、今日は良い感じのアイウエオ作文が出来たのだよ元親クン!
この前は慶次君でやったんだけど、ピンと来なかったから元親が戦から帰ってくるまでに
元親をお題にしようって思いついたの。
(ちなみに慶次君のは『ま』ともじゃない『え』をかく『だ』めにんげんは『け』いじくんなのですが
『い』いかげん『じ』しゅくしてほしいです、にしました)(幸村君はまだ考え中)
元親はすこし驚いたようだったけど、何か思いついてムッと顔を顰める。
「おう。まさか俺が居ない間に他の野郎のも作ったんじゃねーだろうな」
「え?元親以外の人の作文?
…うーん、元親の事ばっかり考えてて思いつかなかった」
「そ…それなら構わねぇんだよ、それなら。」
(ついとそっぽを向いたけど)判ってます、判ってますよー元親殿!あなた今照れてるんでしょ?
だから私がこうやって顔見ようとしてもあわせてくれないんだものね!
なんだかなー可愛いなー!年上って雰囲気が全然しない。元就君が教えてくれたけど、
元親って女の子になってたんだって?だからこんなに純粋でヤキモチ焼きなのかな。
だって他の武将さんのアイウエオ作文つくったら凄く怒るんだ。
元就君のをつくったときなんて、その場で燃やされちゃいました。
(信じらん無くてそのあと冷戦になったけど)
「はい!読んでみるといいよ元親のまんまだから」
「読むけどな…、これ作るのに何日かかった?」
「え?三時間だけど」
「…」
元親は作文に目を落とした。実は元親って睫が長い。
顔だけ見てるとちょっと男勝りな女の子みたいだ。流石は女装癖だよね。でも可愛いなぁ…
いつきちゃんの服とか似合うんじゃないのかなぁ。
『ちょ』っといやらしいめで
『う』みにあいじょうをそそぐかれですが
『そ』んなにつよくないのです
『か』べにあたまをぶつけることもありますが
『べ』つにりょうりはうまくないほうです
『も』っとさかながたべたい
『と』きにはやまにもいきたい
『ち』きゅうはまるいのであろうか
「……はぁ」
うきうきしてる私をさし置いて、読み終えた元親は深く溜息をつく。
(なんで!なんでいま溜息ついたの!)そんで私に目線を向けて
『お前は本当に…』とでも言い出しそうな顔をした。
私は愛情を注いだつもりなんだけど…すこし落ち込むなぁ。でも元親は笑ってる。
「御気に召さなかった?」
「はっは!気に召すほうが難しいなこりゃ。最期らへんはお前の願望じゃねえか」
「願望じゃないよ!元親が思ってそうなことを書いたんですー!」
「俺が山に行きたいって?」
何言ってもまともに取り合ってくれない元親。
私は貴方のややこじゃなくって奥さんなんだよ長宗我部!
確かに貴方は背も高いけれど、失礼しちゃうわ本当に。
とか思いながら私は体ごと向こうを向いた。
なんかとても腹が立ってきたんだから。元親は帰ってきてから自分勝手になった気がする!
だって戦に行く前は花を摘んできてくれたのに。あら?でもそのときはまだ『姫若子』だったのかな?
だったら仕方ないのかな?
「おいおい、拗ねなくたっていいだろ?」
私の背に掛かる大きな手。
目すらあわせてくれなかった婚約初期が遠い日のように思えてくる。
あの時は手を握ったら泣かれたんですもの。今は向こうがとっても精力的なんだから、
ものすごい変化よね。でもこうして気兼ねなく触れてくれるのが嬉しい。
「な、最後は書いてなかったろう?」
「どうせ私の願望が続いているだけだもの」
「そーんなつれねぇ事いわずに聞かせてくれよ」
それでも私を拗ねた子供みたいに扱う元親サンに、私は未だ拗ねたままで居る。
それをみてまた元親は声を猫なで声にする。慣れない事しちゃって、なんだか気持ち悪いよ
元親!
「………」
(でももうちょっと困らせたって、バチは当たらないよね。)
がぶり
今、私の口は丁度後ろにいた元親の首に食いついている。
どうしてこんな事したって?だって元親はちょっとやそっとじゃ驚かないんだもの。
私は根に持つ女だから、ずっと引き摺ってたんだ。
お風呂のソコに剣山をひいても、無理いって信親君に女装してもらっても全然気にかけないんだもの。
どうしようかと思っていたときが、ホラ、あの時。『元親がにゃんこ見たいに盛ってる』って思ってたとき。
だから今度は私が盛ってやろうとしたんだけど…
「…」
予想よりも遥かに熱っぽい元親の声が聞こえる。(噛み付いたままだから直接、耳に。)
元親と私の欲望の樽があるとしたら、きっと元親の樽の方が圧倒的に小さいんだろうな。
だからすぐに溢れるって言うか、破綻するっていうか、堪え性がないっていうか…
そう、私の謀り負けってこと。
顔を近くにしたままで体重を掛けてくる元親。あーあ、なんで食いついちゃったのかな。
私も欲求不満だったのかな。(でも元親の香りがした。)(なんかうれしかった。)
春先のにゃんこは私のほうでした、なんてオチは笑えないと思うんだけど?
「で、最期の一文字はどうした?」
「格好良い、の『か』」
…でも、今は目の前いっぱいに赤くなった元親の顔でも見て満足しようと思う。