行き成りBASARAノタな話をして悪いんだが、俺は福島正則と加藤清正の区別がつかん。
戦国バサラでは主要キャラ意外、全員同じような出で立ちだったりする。
それは戦国BASARAだけじゃなくて、無双でもKHでもいえることだ。
つまり、戦で仲間か敵かを判断する為に、装甲を僅かに変えて大体を同じにしてある同一モーションの塊だ。
これをみてプレイヤーである俺達は『正義か悪か』を判断する。
鬼庭さんとか、黒田さんとか好きだったりするんだが、顔が同じなんだもん。
赤いゲージが頭の上に在る限り敵なんだもん。(もんって、俺)
つまり、雄牛の群れは、刀を持った権力主義を悪とみなすんだ。
29 ジャンヌ・ダルクは横暴に
攻めてくる、と弥吉に伝えた後、いつきは大急ぎで来た道を戻ろうとした。
他の人間にも伝えに行こうとしているのだ。
弥吉の家は村の中心から少し外れた位置に在る。丁度いつき門の反対側ぐらいだ。
それでもいつきはまず最初に、此処に来た。その証拠に、広場の辺りは全く騒がしくない。
ほんのりと朝日を浴びる物見やぐらが背を高くして村から突出しているのが、やけに目立った。
「!いつきちゃん、どこにいくだ!」
「おらは皆に伝えにいく!
だから弥吉兄ちゃんは家の人を非難させてけれ!」
弥吉はいつきに言われたとおり、両親を非難させようと家に戻ろうとしたが、そこでハッ、と
が居ることを思い出した。そして考える。どうしたらいいか、と。
この辺の地理は随分と複雑で、しかも夜明けである、真っ当な視界など得られない。
そんな中で唯一整理されたいつき門から出て行けないとなると、そうそう案内無しに街道へは出られない。
しかし自分の両親が、村が、仲間が窮地に立たされようとしている。
弥吉は自分を情けなく思いながらも、パンクしそうな頭で馬上のを仰ぎ見た。
「…、さん?」
しかし彼の隣は完全に、もぬけの殻であった。
□□□□□□□□□□
「みんなー!大変だ、起きてけれ、お願ぇだから、聞いてけれー!」
乾燥しきった気管が、空気を取り込む度にひゅう、と音を立てる。
しかしそんなことに構っては居られない。いつきはハンマーを引き摺りながら必死に家々を廻っていた。
途中、石につまずいて転んだ。掠った傷口がひりひり泣いて、出血しているぞ、と実感させた。
それでもいつきは走るのをやめなかった。自分よりも大切なものの為に走っているのだ。
彼女には少々の怪我や渇き、まるで無いもののように、感じられた。
「このままじゃ危ねぇんだべ!山賊がやってきてるだよー!」
いつきの大好きなこの村は、内乱も何も無いまま、村民の中も良く、僅かでも確かに繁栄してきた。
人口も増え、今年は今までに無い豊作だった。だから、野武士に狙われたのかもしれない。
いつ来るかもわからない脅威を目前に、まだ半数も終わっていない家屋の前を走る。
あいつらは嫌いだ。いつきは奥歯をかみ締める。いつきに『山賊』と『夜盗』、『武士』の違いなど存在しない。
全て同じように憎い。畑仕事もなしに辛い辛いと豪語するあの人間達が、刀を振り回すだけで皆が従うと思っている
あの人間達が、憎い。自分に力が在ったら。そう悔やんでいた時、空から振ってきたのがこの槌だった。
忘れもしない。感謝の意も込めて、サルタヒコを強く握り締めた。
「みんなァー!起きてけれ…、あっ!」
(また、転げちまうだ…っ!)
走り続けてきた足が、一瞬、疲れを見せた。
迫る地面を確認した後、いつきは反射的に目を瞑る。
しかし次の瞬間に彼女に訪れたのは、地面に触れるじゃりっ、とした感覚や痛みでなく、
何かが腹部をしめつけるような圧力と、両足が完全に浮いてしまったような浮遊感。
それと、馬の蹄の音。
「ふぇ…?」
今、いつきの視界に映っているものは、凄い速さで移動していく地面の砂や砂利だった。
暫くしてから、凄い速さで移動しているのは、自分の方なのだと分った。
腹の辺りをみれば、桃色の着物から覗く腕が自分を抱えているのを確認できたし、その下方で力強く地を蹴る
馬の足も目に入った。
顔を上げて、何が起きているかを把握しようとしたら、そこに居た黒髪の人間は、
その凛とした瞳でまっすぐといつきを
見ていた。いつきの驚愕色だった瞳に、尚更の驚愕が重ね塗られる。この人間は、この人間は、と
思い出そうとするが、足元も安定していないし、こんなに速く走っている馬に乗ったことも無いので、
唯々、目を張ることしか出来ない。
「大丈夫か、しっかりしろ!」
その女は、外見に全く合わない乱暴な口調でいつきに話しかけた。
そして返事を待たずにいつきを抱え上げ、馬上に乗せる。
そうやって馬の上に横抱きにされてからいつきの思考は回復した。
こいつは武田の姫ではないか。武家の、武士の人間ではないか、と。
その瞬間、いつきの脳は下馬を望み始めた。中枢の命令に忠実に従って、いつきの四肢が暴れ始める。
「降ろすだ!おらを降ろせ!」
「おい、暴れるな!落ちても良いのかよ!」
「ええだ!降ろさねぇンなら落ちてやるだ!」
「誰が落とすか!」
乱暴な言い様にあわせて、いつきの肩に添えていただけだったはずの女の手が、両肩を覆うように
していつきを捕まえた。落とさないようにするためだろう。それに対し、言葉さえ無くなったものの、未だ同じように暴れる
いつき。その小さな口が、女の腕に噛み付いた時、やっと馬が止まった。
今が機とばかりにもがくいつきの肩を、女は容赦なく掴み、己の方に向かせる。
見ただけでは畑仕事すら出来無いような細い腕なのに、たったの片手で身動き1つ取れないほどの
力が篭っていた。
いつきと正面で向き合った女は、幼子を諭すように言う。
「あのな、癇癪を起こすな。お前は皆を助けたいんだろう」
「っだけんども、お前さんには関係ねぇ!早く降ろすだ!」
「こんなに広い村、お前1人で走ってちゃ間に合いやしねぇ
…武家の俺と一緒に居る何ざ嫌かもしれねぇが、今だけは堪えてくれ」
「……なに、する気だべ」
「村中を走る。
ああ、お前は先刻通りでいいから」
真剣だった女の表に、にっこりとした笑みが花咲いた。
女はそのまま、横抱きの状態からいつきを抱え上げ、馬に跨らせた。
いつきがその力の強さに驚く間もなく、馬が発進する。
慣れない振動に耐え切れず、馬の首にしがみつけば、
大丈夫か、とまた心配された。そんな気遣いがなんだか癪に障って、無視した。
無視して、『村の皆の為に』声を張り上げた。
その女と馬の活躍もあってか、いつき独りで走り回るのに掛かるであろう、大よその時間よりも
、ずっと迅速に事は進んだ。全家屋前を廻り終わって、一段落ついた頃には、
辺りは充分に目が使えるぐらいに明るくなっていた。襲撃を掛けるつもりの山賊、野武士達もこれを狙っていたのだろう。
朝早く、活動するのに不自由ではないが、誰も起きてこない時間帯だ。
例外的に、いつきの居る村の人々は、遍く起きているが。
「おい」
「何だべ」
「降りろ」
密着した背後から言われたその言葉を耳に入れて、いつきはようやっと
武家の人間と共に居たことを思い出した。言われなくとも、と勝気に睨み返し、飛び降りてやろうとしたが、
馬上は案外高い。両手で受身でも取れば何とか成る…しかし、片手はふさがって…ふさがって?
いつきは自分の両手を見た。何も持っていない。この女の馬に乗せられた時は持っていたはずだが。
どうしたものか、サルタヒコは何処にやったのだろう。もしかして、置いてきてしまったのか。
混乱していると、密着していた暖かさが消えて、何かが地に降りる音が聞こえた。
両手から目を離してみれば、先程まで後ろに居た女が何かを地面に置いた瞬間だった。
とたん、いつきの目が軽く見開かれる。それはサルタヒコだった。
在りえない話だ。サルタヒコは凄まじい重量の鎚。それをあの騎乗中、いつきがその
存在を忘れてしまうぐらい自然に持っていたというのだろうか。いつきの記憶の限りでは、
女の片手は自分を支えるようにして(そういう行動もいつきは気に入らなかった)手綱を
握っていたはずだ。まさか片手で?そんな、馬鹿な。
その奇妙奇天烈な女は両手を払うと、いつきの方へ差し伸べる。
ぼぅっとしてそれを眺めていると、両脇に手を突っ込まれて、地面に引き摺り降ろされた。
何をされたか理解するまでに数秒要した。その数秒後、頬に血液が集まってきて、
カッ、と火照った。
「な、なにするだ!」
「いや、降りらんねぇのか、と思って」
「お、降りっ…おらを舐めるでねぇ!
こんな馬っこから降りるぐらい簡単だったべ!」
「ありゃ、そっか。ごめんな」
「馬鹿にしてるだか!!」
「ちょ、よせって、」
「待つだ!」
女は随分落ち着いた表情で、にへら、と笑った。
ついでに、いつきにサルタヒコを握らせる。しかし、すっかり感情的になってしまっているいつきは、
白い頬を遺憾の桃に染めながら、ハンマーを振り上げた。冗談めかして逃げる女。
逃げる獲物を追いかけるいつき。不思議なことに、怒りの鉄槌を2、3振り下ろしていくうちに、
いつの間にか憤慨はなりを潜め、いつきの心には唯、ぽっかりとした疑問だけが残った。
その疑問は表し切れぬ空虚に変貌し、いつきの足を止めさせ、ハンマーを地に伏せさせる。
「おい、どしたー?」
「…お前さんは、なして、」
武家のお偉いさんのくせに。
どうして弥吉兄ちゃんと一緒に、たったの1人で、こんなところに来たのだろう。
どうせ真っ裸の土の上になんて座ったことも無いだろうに、どうして我々の誘うままに地面に腰を下ろし、
百姓で賑わう中に、居続けたのだろう。どうして沢山の村人から非難の視線を受けて、平然としていたのだろう。
どうして転げそうになった自分を
助けてくれたのだろう。どうして馬に乗せてくれたのだろう。どうして見放さないのだろう。
どうして、あんなにひどいことを言ったのに、
「そんなに、おらたちに優しいだか」
その発言の中には百姓身分に対する卑下たニュアンスも隠れていた。
勿論いつきにもそれは分っていたし、きっと目の前の女にも分っていることだろう。
その証拠に、いつきの問いが発せられた瞬間、僅かだが、女は己の眉を寄せた。
小さく息を吐くと、そのままいつきに、いや、馬のほうへ近づいていく。擦れ違った辺りで、
立ち止まって、いつきの頭を撫ぜた。何故か、振り払う気にはならなかった。
「お侍達は自分勝手で傲慢で、血も涙もないんだろう。俺も一緒だよ。
先刻のは丁度、誰かと一緒に相乗りしたかった、そんだけだ。」
「そ…そんなの嘘だべ!」
「ばーか、お前、嘘なもんか!俺ウソツカナイヨ」
「滅茶苦茶うそ臭いだ!だってお前さん、先刻、」
「いつきちゃん!」
いつきが女に食い下がろうとすると、後ろから声が聞こえた。
目の前の女の視線がそちらに向いたのを見て、いつきもそちらを向く。
そこには、いつき(と女)が奮闘して緊急事態を知らせて廻ったことによって集結した村人達が居た。
彼らはいつきの名を引っ切り無しに呼ぶ。それでもいつきが自分達の方へ来ないと分ると、昨晩弥吉と感動の再会を
した男性、権兵衛がいつきと女の間に割って入り、女のほうを睨んだ。
「お前さん、いつきに何をしただか」
「権兵衛どん、おら、何もされて無ぇだよっ!」
「ん。そうそう、何もしてねぇよ」
『まだ、な。』
笑むように薄まった女の双眸に、権兵衛の目も厳しくなる。
その背後に匿われたいつきだけは、その返答に目を丸くしていた。
『まだ』とは?彼女は自分になにかするつもりだったのか。いや、そんなわけは無い。
少なくとも彼女は害を与えようとしている雰囲気ではなかった。
それに、今にも荒らされんとしている村に残っているのだ。
そこまでしてこの村に、そして自分に何か仕出かしてやろうと画策する
人間など居るはずも無い。
しかし、
「怪我させたくないなら、早く連れて行けよ、その小娘」
まるで挑発。
女は僅かに薄ら笑いすら浮べて、権兵衛といつきに一歩近づいた。
いつきにその気は無かったが、権兵衛がすかさず後退するので同じように後退する。
後方に集まった村人から早くこっちに来い、と声が飛ぶ。その声に触発されてか、
女がもう一歩進もうとしたとき、権兵衛は弾かれたようにいつきの手を引いて、仲間の元へ戻った。
いつきを権兵衛を囲むようにして、慣れ親しんだ顔が安堵の息を吐く。
「良くやってくれただ、権兵衛どん」
「さすが田楽踊りの名人だべ」
「…ええから、皆非難するべ」
権兵衛は寡黙な男だ。皆の賞賛など気に掛けすらしない様子で、非難を促した。
触発され、皆は村の奥へ移動を始める。この村の奥まった先の方、
そこは小高い丘になっていて、豊作を願い俵で作られたモニュメントが丁度中央に位置している。
この村の豊作の実りが目当てならば、そこまで行けば、もはや追って来はしないだろう。
(だけんども、あの武田んとこの姫さんは…)
いつきは、手を引かれながら後ろを振り返った。あの女は未だ先刻の場所から動いていない。
唯、馬に乗ってこちらをじぃっとみつめている。一体何を考えているのだろう、と探ろうとしても、
もはやその表情は、距離が開いてしまって見ることは叶わなかった。
いつきが同行している一団には勿論、弥吉とその家族も居る。
いつきが視線を戻せば、ちょうど斜め前ぐらいに弥吉が、その父母を守るようにして、歩を進めている。
随分な人数が丘に非難しつつある。僅かな取りこぼしは在るやも知れないが、大人数。
つまりあの姫は、たった今はひとりっきり、ということだ。
「…?」
一瞬、いつきの体を違和感が駆けた。
歩きながら小首をかしげてみても、それが何か分らない。
「お前、今の言葉、もう一回言ってみるだ!」
しかし、その違和感が何で在るか考えようとした矢先、
黙々と進み続ける人の列の中から聞こえた大声に、
いつきの思考は中断させられた。
ハッとして、一体何処からの声か、と辺りを見回してみれば、
声の主は先刻まで何も言わずに歩いていた弥吉だった。
すぐ隣の(いつもおらの応援をしてくれる)青年の服の胸倉を掴み、今にも噛み付かんばかりの
剣幕で迫っている弥吉は、いつきが見てきたどの弥吉よりも衝撃的で、恐怖を抱かせるものだった。
弥吉はその青年を突き放すように解放して、彼の周りを囲む全員に言う。
「誰が言い始めただか」
どうやら、いつきが坂のふもとに残った(今はどうか分らないが)女のコトを気に欠けている間、
他の人々の間で、何か妙な話が流れていたようだ。それが湧き水のように、小さな出発点
から、いつの間にか勢いを増し、人々全体を飲み込むような波になり、
やっと今、弥吉の耳に入ったのであろう。
流れの止まった列の中、弥吉は遺憾の抜けきらぬ顔のまま、周囲を見回す。
目は合わなかったのに、いつきは心臓が縮むぐらいに緊張した。
「だども、仕方ねえでねぇか!」
沈黙が続くかと思いきや、それは直ぐに破られた。
先程まで弥吉につかまれていた青年だ。青年は逆に弥吉に掴みかかり、
周囲を代弁しているとでも言わんばかりの使命感に満ちた目で弥吉を睨む。
しかしここは曲がりなりにも伊達軍に仕官している弥吉。
怯えた様子もなく、青年を見つめていた。
青年は、その落ち着いた瞳に正視されて、たまらなくなり、まくし立てる。
「賊が来たのは、あの娘っ子が来た所為でねぇのか!
誰だって…誰だってそう思うべ!お前さん、弥吉どんだって…
…あ、あの娘っ子と手ぇ組んでるんでねぇかって!」
誰一人としてその叫びに反論するものは居なかった。
居なかったが、弥吉とその両親を含む幾人だけは、その言葉を吐いた口元を
じぃっと見つめていた。その中には端から青年の意見に同意で無い人間、弥吉と交流の深い人間、
それから、
(あの姫さん、)
(…そっだらことするふうには、見えねかった)
いつきも居た。
いつきは十数分前の事を思い出すようにして俯いた。
傲慢さを全く感じさせない、お天道様みたいに明るい笑顔がいつきの脳内に
再生される。あの人間がそんな薄汚れた策を張ったわけが無い。
でも、いや、まさか、そんな、騙されているのだろうか。
大多数に反する呵責がいつきの決心を揺さぶる。
弥吉は静かに、それでも静かな怒りを纏ったまま、話し始めた。
「世の中には紛いもんの武士がたくさん居るだ
確かにあいつら、刀振って、苗字名乗ってるだけで偉えって思ってる
おらだって、武家に産まれたことがそんなに偉えかって思ったべ
だけんどもな…、」
弥吉の頭の中を過去の映像が駆け巡る。
無駄なほど位や礼儀にこだわる武家の人間に初見で馬鹿にされたとき。
扱い方が分らない刀を手持ち無沙汰にしていた時の、あの蔑みの目。
米沢城に来てからやっと仲間が出来た時の歓び。
そして初めて自分に感謝してくれた、武田の姫の笑顔。
「さんは、あの人は、本物の武士だ!」
そう言うなり、弥吉は己を囲む村人の輪を突き破るようにして、坂の麓へ向かっていった。
背の刺繍が翻る。本人も未だ扱いなれていない刀が、小さく金属音を立てた。
全員がその後姿を見つめていた。
その瞬間、いつきを二度目の違和感が襲った。
「…サルタヒコ?」
彼女に伝わるのは、命を持つ生き物が持つような、確かな拍動。
『姉さん、良かったんですか?』
「何が?」
『何がって、あんな言い方して、ですよ』
「俺は優しくなったら負けだと思っている」
『どこかの無職よりも性質が悪いですよ姉さん』
組み立てられた木がギシギシ鳴った。
アレクサンドリアフィンドルスゴビッチ政宗と、彼に跨ったは、いつき門の下で問答していた。
は無気力に頭を掻いたり、アレクサンドリ(以下略)の背を掻いたり、いつき門を掻いたり、
アレクサ(以下略)の背にへのへのもへじを描いたりしている。
アレ(以下略)も雑草を蹴ったり、石を蹴ったり、いつき門を蹴ったり、かじったりしていた。
暫くもしないうちに、1人と1匹の前方に不確定多数の足音が聞こえ始めた。
は顔を上げる。目線の先には先程から話に上がっていた御一行が居た。10人程度だろうか、
山賊の代名詞ともいえよう草臥れて茶けた服装のそれらは、雑談交じりにいつき門に近づきつつあった。
それを見つけたは上機嫌に微笑む。
馬(最早種族名)は闘牛がするようにして、蹄で勢い良く地面を削る。
小さく合図を送るように手綱を引けば、アレクサンドリアフィンド(以下略)は分った、と頷く。
は速度をつける為に身を低くして、進行の指示を出す。下卑た話に夢中になっていた
彼らが蹄の音に気付くのは少し経ってからだった。その頃にはもう、とアレクサンドリアフィンドルス(以下略)
は完全に彼らに接近しており、何事かと目を張る彼らの前で、大きく跳躍した後、
彼らの直ぐ前方に、盛大な土煙と衝撃を持って、馬蹄を墜落させた。
類を見ない参上の仕方に唖然とする山賊等。
は、乾いた土が起こした煙幕が丁度良く晴れた具合になってから、
あくまで純朴な質問でもするかのように、ひょっこりと馬上から顔を覗かせた。
「お兄さん達、この先に何か用事がおありで?」
「…」
「?どうなされたんですか?ご気分でも悪いんですか?」
究極知らん振り。
究極丁寧。
山賊からは明らかに『用事ってお前、そんな登場しといてお前、』という目で見られているが、
は終止ニコニコしたままで話しかける。出来ることならば、話し合いで帰っていただきたいと思って
いたのだ。三河の時も、昨日の湖の時も同じだったのだが、自身に
最初から戦いを申し込むつもりは、ない。多分。(でも姉さん、
最初の跳躍の時『全員八つ裂き!』って呟いて、)
(いやいや、それ何?そんな事言って無いから本当に、マジで)
「な……なんだ、てめぇは!」
「山賊の皆様、お早う御座います。
申し遅れました、私、通りすがりの…ト、トンプータンです」
≪な、なんですかトンプータンって≫(ぼそ)
(今思いついた。俺も何かは知らん)(ぼそ)
行き成り口を突いて出た言葉に当惑するとアレクサンドリアフィンドルスゴビッチ政宗。
相手の山賊一味もまた同じように当惑してはいるが、それ以上に『山賊の皆様』という言葉の方が驚きであった
ようだ。山賊相手に恐れることなく話すに
驚いているのか、自分達が山賊だとばれたことに驚いているのか。
前者だとすれば納得もいくが、後者だとすれば、自分達の見てくれを見たことが無いのだろう。
因みにトンプータン。発音はとん(→)ぷー(↑)たん(↓)である。検索した結果、該当するページは0件
であった。裏方も意味は知らない。
「おい、てめぇ、用事がどうだの言ってやがったが、
俺達が山賊だって分ってんなら知ってるだろうよ」
「村を襲うとか、人を殺すとか…まぁそのぐらいなら知っては居ます。
あの、これは提案なのですが、退きませんか」
「…ッブハハハ!こいつぁ馬鹿じゃァねえのか!
嬢ちゃん、どこの箱入りだかは知らねぇが、どいた方が身の為だぜ」
「いいえ、そうもいかないんですよ。
折角のご好意、足蹴にしてしまって申し訳ないのですが、」
突如、を嘲笑した男の体が宙高く飛んだかと思うと、重力にしたがって
落下し、先程の達同様に、乾いた粉塵を撒き散らして着地した。
着地したといっても、まともなそれではない。横たわったまま、辛うじて意識が在るのか、腹ばいで
何処かへ非難しようとしている様子が見て取れる。
口からは血液ではないにしろ、胃液らしきものがつう、と伝って、地面に落ちた。
全員の目がそちらに向かう。幾人かがその様子を見て顔を青くしているが、
残りはの方に顔を向けなおしていた。
の表情は変わらない。唯、純朴な風だった瞳は、
今は、にっこりと笑みの形に変わっていた。
「ここ通すわけにはいかねぇんだわ
どうしても通りたかったら、チュパカブラ捕獲して来い」
『もはや意味不明ですよ。姉さん』
重い空気の中、と馬の声だけが、快活に響いた。