いいぜ、かかって来いよ。
俺はもう驚かない…つもりだ。
『お元気そうで何よりです。姉さん』
「こここ此方こそお前が元気そうでううう嬉しいぞ!!」
『…姉さん?どうかしましたか?』
「いや…なんでもないんだ、うん、なんでもない」
やっぱだめでした。
(自己暗示に頼った俺って一体…)
22 似非桃太郎と蒼い竜
『なに驚いてンだ、サン』
「…何驚いてって、言わなくたって解るだろ」
『言ってくれないと解りませんよ、姉さん』
『そォだそォだ』
「じゃあ正直に言うがお前に一番驚いてるよ」
何に驚いてる?だって?
馬鹿を言うな!決まってるだろ、お前、見てみろ目の前を!
(俺今誰に向かって言ったんだろ)(お前だァァー!)
鳥だけなら、鳥だけなら……うぅ
悔しい気もするが、鳥だけならまだ大丈夫と言ったら、少し語弊があるかもしれない。
だからといって他に沢山来て良いというわけでは無い。俺は目の前の状況に
唖然として、月並みなツッコミしか入れられずに居た。っていうかこの状況どうよ、
どれだけ不思議体験すれば気が済むんだ?え?死ぬまで?じゃあもう死ぬかも。
俺、悲しくなってきた…。
そんな俺の思考も知らずに俺の目の前の鶏(世間一般で言われる、
本当に普通のタイプのものだ)がきょとんと言い掛ける。
お前等、ブレーメンでも作るつもりか!そうなのか!
いいか、ここは日本だかんな!日本にぶれーめんはないの!
「だって馬じゃねーか」
『ええ、馬ですね。』
「それに鶏じゃねーか」
『ああ、そだな。チキンだティキン』
「お前自殺願望でもあるの?発音は良いけどさ」
チキン=調理された鶏
俺の必死の突っ込みも何処吹く風、目の前の鶏と馬は血どころか脳が繋がってるんじゃないかと思うぐらい
同時に小首をかしげる。うわ、可愛…いやいや、
それにしても何その、そんなの当然じゃん、みたいな顔!
世界中に馬鹿にされた気分だぞ!最悪だ!
馬とか鶏にそんな表情があるのかっていうか、いや、だから顔って言っても表情じゃなくて、
雰囲気っていうか……ッAh−!!動物って面倒だ!凄く面倒だ!
(ほれみろ伊達政宗菌が伝染ったぞ!)
……
さて、何が起こったかを整理しようか。
鶏に出会った後、『もう一人紹介したい奴が居る』っていわれて待っていたら、
俺の前(ていうか庭先?)(流石に部屋の中には入れなかったみたいだ)
に現われたのはまさかのアレクサンドリアひゅぼ、痛ッ舌噛んだ…兎に角
あの、俺が名前を付けた馬だった。白がかった茶のたてがみのアルビノ種。
愛着はあるものの、なんだか近づき難かった。
俺は今まで馬と会話したことは一度だって無い。
勿論、鶏だってそうだ。蟻とも、
猫とも、ハムスターとも話したことなんて無いんだものな。
っていうか、それが当然だ。俺、別に悪魔の実とか食べてないし。
無意識に俺は額に手を当て、項垂れてしまう。
「ったく…どうして会話できるんだ?こんにゃく?ドラえもん?」
『それはズバリ威鞘さんですよ』
『そらァズバリあの兄ちゃんが良いようにしてくれたンだよ』
「あーもうまーたアイツか、アイツの仕業か」
ズバリお前等仲良いな!
最初に思いついたのは威鞘だったが俺はアイツを信じよう
として30秒で裏切られました。もう人は信用しません。
あれ、威鞘って神様だったっけ?じゃあ俺以外信用しません。
鶏と馬曰く、威鞘は俺に会いに来た日の早くにこいつ等のところにも現われて、
目の前で意味の解らないことを言って去って行ったらしい。呪文か。てめぇ威鞘、人様の飼い物に勝手に呪を掛けやがって、
今度会ったらお前にザラキを唱えてやる。
「そんじゃあ…今朝俺が聞いた声はお前等だったのか?」
『ええ、そうです。私達でお邪魔しました。』
『コイツが部屋ン中まで入って来っから、狭い狭い』
『仕方ないでしょ。皆が行くって言うから行きたかったんです』
『それで床板踏み抜いてたらお前、城から追放だったンだぞ』
『そんなことないですよ』
「………」
『ある』
『ないです』
『あるね』
『ありませんよ』
「今日は良い鶏と馬のタタキが手に入りそうだなー」
『『本当にすいませんでしたもうしません』』
馬鹿野郎が。喧嘩両成敗ってコトだ。
本格的な命の危機を感じたらしい二匹は直ぐに黙ってくれた。
そうそう、黙ってれば可愛いんだよ。ていうかそれが普通なんだよ。
コッケーとかブルルーとか言ってるのが普通なんだよ。
それなのにオメェ、口論とかそんなお前!世界の常識が一気に無くなるよ。
まるでコロンブスとかそういう人の考えだよ。その気になれば卵を潰してでも立てるよ。
…と、俺が二匹をなでこなでこしているとき、
『おとっちゃぁん!おとっちゃぁん!』
その元気な声は庭先の草むらから聞こえた。
その声のする方向に顔を向けた鶏は呆れたような声(具体的にはグクェー)を出して、馬は
まん丸お目々で見ていて、俺に至っては動物の声が聞こえることに何の抵抗も抱かなくなっ
ていた。順応って怖い。俺こうやって何もかもに慣れていくのかな。お館さまと幸村の毎朝の
絶叫すら日常に思えてくるのなら俺はそんな順応性なんてのは捨ててやる。はさみで綺麗にカットして
ダストボックスにダンクシュートして焼却処分してやる……と?もしかして今のは?
「あの声だ」
『あの声?』
「今朝俺が聞いた声だよ。あの餓鬼っぽい声だった」
『彼のお子さんなんですよ。小さくて黄色くって可愛いんです』
「ひよこかぁ」
『おっ……おどーぢゃー!』
『チッ』
半ばぐずりを含んだ声が聞こえ始めると鶏は渋々ながらその声のする方向へ向かっていった。
なぁに?パパじゃん。立派なパパじゃん。市で出会ったときのコトがもう嘘みたいに昔に感じる
ぜ。いやぁ、此処までパパになったんなら飼い主名利に尽きるってやつだよな。
食われなくて良かったなー鶏!食卓に鶏が上がったときは毎回お前のコト思いながら食べてたよ。アレは美味しかった。
鶏が戻ってきた時にはその後ろにひょこひょこした小さい、黄色の生き物がくっ付いてきていた。
必死についてくる姿が可愛らしい。っていうかそのまま屋台のヒヨコ釣りにでもいけそうな、
そのまんまのヒヨコだ。ちょうかわいい。めっさかわいい。なにあのかわいい生き物。
鶏曰く、このちっさい黄色い子も威鞘が来た時に一緒に居たらしい。
だから話せる、というか聞こえるんだ。これって動物の方が話してるのか?
それとも俺に聞こえるようになってるのか?あ、そういうのはもういいのか。
だってBASARAだもんな。BASARAだもん。(便利な言葉だよマジで)
俺は手の平にちっさい黄色いのを乗せて話しかける。
小さな生き物特有のほんのりとした暖かさが手の平を通して伝わってくるのがなんとも
いえない感じだ。しかもなんかこの黄色いの、小さく『ぴぃぴぃ』言ってる。
走ってきてたから疲れたのかもしれない。極力負荷を与えないように撫でると目を閉じた。
「それにしてもお前はどうして泣いてたんだ?
父ちゃんが居なかったから?」
『うーんそうじゃないよ!僕ねぇ、森でねぇ、不審者を見てねぇ
それでねぇ、ビックリしたからおとっちゃんに言いに来たの』
「ふ…不審者ァ?どんな?(野良猫でも見たんだな、多分)」
『あのねぇ、青くって三日月がついててねぇ、意味の解らない言葉を話しててねぇ』
「ちょ、…今お前何つった?」
『サンに甘えてねぇで最初にそれを言え、馬鹿』
『おとっちゃんだって喉鳴らしてたくせに!』
『餓鬼は黙ってろ!』
『ホラホラ2人とも……姉さん?』
青くって、三日月で、意味の解らない言葉で…まさか、まさかな、そんなまさかな!
そうだよな!いやぁ、そんな特徴を持った野良猫なんて見たこ
とが無ェぜ!あはは!ほんとにさ!
青い猫とか、すごいよ。何だそれ。あっははは!青いってペンキ
でペタペタされたのか?駄目だよ誰だよやったヤツ、動物虐待だよ軽ぅーく。
そのうえ三日月とかつけたりしたらもう虐待って言うか変態って言うか
ウルトラマンって言うか。まぁ意味の解らない言葉は仕方ないとしてさ!
それから、えーと、アレだ…アレだよ!
東北から此処までって結構遠いし、ンな面倒なことを誰がやるかってんだ!
野良猫だよ!一風変わった野良猫…
『でねぇ、大きくって背の高いお侍さんだったんだよ!』
はい!ど真ん中ストレートに命中しました!
(何で来ちゃったかなあの青い人!)(ランニングとかだったら帰れ!)
どうやら伊達政宗がやってきたらしい。
というかなんで甲斐に来たんだろう?
しかも森で目撃って珍しい生き物
かよ!お前はイエティか!その癖ヒヨコに見
つかってンだよな。城主なのにどこか抜けてるというか…心配じゃねーからな。
小十郎さんが大変だろうなって思ったんだよ。
「よっこいせ」
『おいおいサン?何処に行く?』
「あ?ちょっとお出かけだよ、オデカケ。
侵入者をなんとかしねぇとな」
なんにせよ、甲斐の領内を勝手に徘徊されたんじゃ堪ったもんじゃない。
俺は縁側に下ろしていた腰を上げると立ち上がって一度背伸びをした。
鍛錬中だったし佐助は来るし、おいでよ動物の森だし、俺の背骨云々は
ボキボキ音を立てた。もう一眠りしたいけど、先ずは不審者を捕まえないとな。
青くて背の高いネズミが入り込んだってんじゃ、おちおち眠っても居られねぇ。
『僕も行くぅー!』
「馬っ鹿、お前は飯でも食って寝てな」
『お姉ちゃん僕ねぇさっきおっきいミミズ食べたよ
だからねぇおなかへって無いよ』
『俺も行く。危ねぇだろ、相手は侍なンだから』
『そうですよ。威鞘さんからは貴方を守るようにも言われたんです
でも、それだけじゃないんですよ?私達の主じゃないですか、姉さんは』
「お、お前等らなぁ……」
ちょ、ちょっとだけ感動しちまっただろ馬鹿ヤローが!
こういう気持ちは嬉しくないわけが無い。
もうこいつ等が人語を話すのには慣れたし、慕ってくれるなら可愛いじゃねーか。
でも相手は伊達政宗なんだからそんなに身構えていく必要も無いと思うんだけどな。
あ、いや、別の意味で身構えなきゃなんないのか。佐助が言ってたんだよ、伊達政宗に触ると
妊娠するよって。もれなく双子だよって。どんな確率だよ。
フツーに無いと思うけど。
赤ん坊がキャベツ畑から産まれるぐらい無いと思うけど。
「わぁったよ、そんじゃ一緒に行、」
ガサッ
「Hey、そんなに引き連れて鬼退治にでも行くつもりか?」
「…おう、そんな所だ。ちょっと三日月を被った青鬼を殺しに、な
それでお前は?こんな所まで何しに来た」
「Ha!お前を迎えに来た…じゃ駄目か?」
駄目に決まってんだろこのイエティ野郎。