俺は密かに、そして夢を持って思ったわけよ。

コレがあの有名な神隠しなのだとしたら、 もう俺はふっきれてこの状況を楽しむしかないんじゃないか、とか、 『ここで働かせてください』って言う練習(宮崎作品を見たなら分る千尋)を予めしておかないといけないのか、とかね。 でもいや違うそうじゃない。

言いたいことはそれじゃなくって俺がなんでこんな目にあってるのかってことで。







01 はじまりと暗転







たぶんそれは三時間くらい前のこと。

ばあちゃんが俺にお使いをたのんで…神社にお米を供えるやつなんだけど、 俺はその行きがけにちょっとお店によってゲームを買ったわけだ。 だって暇すぎるんだぜ、里帰りって! ああよかったゲーム機持って来てて、と俺は自分に感謝したのだ。 公言しよう。俺はゲームが好きだ。お金と命の次に好きだ。 ご飯?知るかそんなもの。 燃えるのか?燃えないだろ?ふふふ!(どうしたんだ俺)

今日買ったBASARAも結構ハマッてるゲームだ。 勉強せずにやってたら成績落ちたけどそんなに気になんねぇ。 ようはだ、がすべてを乗り越えたんだよ

・・・・・・ざ、ザビーみたいだ、イァーック!(おえ!)

とにかく俺は家に帰ってからバンバン天下統一するつもりで 『鳥になりてぇな・・・』とか『忠勝ゥーーー!』とか『アイユエニー』とか『覚悟は当にできてたぜ…』とか 言わせるという目標をかかげたわけだ。濃姫の太腿も見るつもりだ。だって俺、健全な男児だからね。

しかしまぁ神社に着く前の道は随分と険しい山道だった。
そんでもって、俺はそんなに苦でもないけど、きっとばあちゃん達には心臓破りの坂であったであろう その坂は今日は異様な霧に覆われていた。
一張羅のベルベットのズボン(高かった)(でも格好いい)に山道のドロが所々ついて 汚・・・・・・くないな、なんか味が出たな、コレ。

新感覚のファッションセンスを身に付けた俺は ウキウキしながら尚更大またで歩みを進めた。



















そんな俺の目の前に表れたのは綺麗な赤い、鳥居だった。

その鳥居は堂々と山道にあって、白い霧に赤が映えている。
逆に不気味に見えるくらいだ。それから少し歩いた先に神社はあった。
しかしそこに人は居なかった。

不気味だ。俺はそのときになってやっとそう思い始めた。

良く考えればこんな濃霧がありえねぇ、こんな事が出来るのは御伽の国の人間 とグレート忍者佐助(GNS)だけだ。あいつなんでもありらしいからね。 だがまぁ、忍うんぬんの前にまだ昼過ぎだというのに空がこんなに暗いのが不思議だ。 え、なにこれ。俺もしかして本当に神隠されたってのか。

てことぁ俺は一生この手提げの前からハミ出てるゲームが出来ないってコトで 変態光秀(おいしかったですよ…とても!)とかも見れないって事か。

ちょおおおぉぉ!そんなのはジャーキーを目の前にした、三日三番食べてない犬に『一生そこで待ってろぐへへへ』 って言うぐらいに過酷なミッションだぞオイ!そんな生き地獄あんまりだぞ!ヨダレ!ヨダレ酷いことになるぞ! もうアレだ、此の際あっちにつれてってくれよ畜生ォォォォ(と思いながら俺は手ごろな樹木に 蹴る殴る等の暴行を働いた模様です…てアレ?)


「あっち? 何其れ」

「おまッ…そりゃあ婆沙羅な戦国だよ」

「へぇ その箱の世界かい」

「そうそうこの箱の」




背筋がぞぉっとした。
ちょっとまてよさっきまで誰もいなかったって。足音もしなかったって。
なんなのこの声。神のお告げなら今此処に テレビとプレステ要求するぞ俺は。
(ゲーム イズ オールよ)


「この声? こりゃあ俺の声だけど」


意を決して俺は凄まじい遠心力と共に振り返ってみた。(ちょ、首がゴキって!)
唯単に興味が恐怖に勝ったってことなんだけど、俺はその声の主をみて 呆気に取られた声を禁じえなかった。


「・・・・・へ?」


すこしばかり背の高い、色白な青年が後ろに立っていた。
しかもテレビで見る古風な(多分貴族だ)着物をその身に纏っている。

髪が正面からもはっきり見えるくらいに高く結われているが、日の光もおぼろげなのに その髪は艶がかってテラテラしていた。容姿も例に漏れず日本美人を彷彿とさせる美人さん。
(男に言う科白ではないのかもしれないけど)正直に、綺麗だ。

唯、広い肩幅と耳に残った低い声だけが、コイツが男だと薄らかに誇示している。


「誰か知らんがびっくりさせるなよ、馬鹿」

「馬鹿っていうなよカワイ子ちゃん」

「カワイ子ちゃん言うな…つか誰だアンタ」

「俺? 俺は威鞘(いさや)ってんだ よろしくーちゃん」

「(ちゃん付け…)何で俺の名前知ってんの」

「俺はなんでもできるの」


威鞘とかいうヤツはごまかすようにひょうきんに笑うと、 凄まじい速さで俺の手提げからハミ出ているソフトを奪った。多分音した。シュバッて。 あれ、と思ってみると既にもう米さえもそいつの手の中だ。世界でも屈指の黄金指かお前は。

それにしても奇妙な格好だ。
まるで今とはかけ離れたその服装は俺の目には 唯のコスプレにしか映らない。
今日ここイベントでもあったのか? んでもってこの神社、貸切でもしてんのかな。
だったらわかるんだけど。

興味深そうにBASARAのソフトを見たあと、威鞘は一言『戦国か 懐かしいな』と。
思考までなりきってンのかお前は!正気にもどれ!カム!カムバック,ヒア!

俺にソレを返した古風な青年に俺は、ふと頭に浮かんだ疑問をぶつけた。


「威鞘 今日は人が居ないな」

「今日?もともと人なんて来やしないぞ」


なにいってんの?とばかりに発せられたその言葉に俺は唖然とした。 もともと人なんて来ない?冗談ヤメテくれ。ばあちゃんがいつも来てるって言ってたぞ。 嘘ついたら泥棒の始まりなんだぞ。ああ、そうか、だから黄金指なのか。あー、はいはい、成る程。 そう思うと威鞘は異常なほどにっこりわらって嘘つきじゃないぞ☆と言った。 エスパーかよお前、星付けんな!


「へ?えすぱー?何それ」

「勝手に頭をのぞくなって意味だよ馬鹿ヤロウ」

「馬鹿って言うぎゃ


俺は威鞘の脳天に深々とチョップをキめた。(ステキなモーションで)
そうすると威鞘は小さく唸ったあと、肩を揺らして笑いはじめた。
不気味だ。いっそのこともう逃げ帰っちまおうか。


「ククク お前って面白いな」

「お前の見てくれも面白いな」

「クックルップ!」

「笑い方も面白いな 鳩かよお前」


威鞘は一通り変な声で笑ったあと、俺の肩に手をかけて意外に低い声で言った。 その手つきたるや街頭でキャッツ…じゃねぇや、キャッチセールスに勤しむよからぬお兄さんのように優しい。 あ?なんで俺が知ってるかって?一回話しかけられたことが在るからだよ。


「うん、いいよ、お前気に入ったよ」

「お前さ本当に何言ってんの初対面の人間に」(早口)

「お前が女だったら好みだと思うんだけどなぁ」

「思うなよ、変態になるぞ。

「男の方がイイけどな、ククックルップップ!」

「・・・・くくっく?」


俺は昔っからどちかというと女っぽい顔してて、ばあちゃん達は俺が小学校に入学するまで 女の子だって思ってたらしい。(ママゴト道具とかばっかり貰ったしな!) 実を言うとこの前のバレンタインで男からチョコ貰ったりもした。 あ、違うぞ。ちゃんと捨てたんだからな。焼こうかと思ったが、焼きチョコになっちまったら何か食べちゃいそうだから やめといた。

気に入ったといわれて嬉しくないわけじゃないけれど、如何せん顔が近すぎる。
退けってコラ。その綺麗なお顔に華麗なジョブをお見舞いするぞテメェ。
いやちょっとまてローキックの方がいいだろうか
此の際使い物にならなくしてもいいだろうか。


「使い物に…怖ぇこと言うなって」

「人の脳内見んなよ」


相変わらず威鞘はニタニタ笑っている。(気にくわねぇ…!)
足でヤツの腹あたりを蹴って後ろに下がらせようとしたけれど、 威鞘は服についた埃を叩いただけだった。『あれ?なんか今泥みたいなのが下腹部にぶつかったんですけどー?』 的な表情の威鞘。ほんッとに殴りたい。ハリーポッターとかが使う杖で集中的にタコ殴りたい。 大体、力いっぱい蹴ったぞ俺。どうなってんだお前の腹筋。鉄の腹筋かソレ。笑うときどうなるンだ。

そして次の瞬間。
俺は威鞘の口から出た言葉に今度こそコイツは変態なんじゃないかと思わされることになる。


「よーし、決めた。お前の体くれよ」

「逝け、もう逝けよ変態」

「ムリムリ 俺幽霊だもん」

「じゃあ成仏しろ出来るだけ早めに」


そう言い終わって俺はハッとした。幽霊だって。 ちょっと待て、本当にコイツ、幽霊なのか。だったら何で俺は此処にいるんだ。 黄泉なのか。山登ってる途中で死んだのか、俺。凄い変死だな。登り死、とか言うのか。 オイオイなんか混乱してきたぞ。第一、俺って死んでンの? つーか黄泉はミスフルの天国の兄ちゃんじゃなかったか?


「安心しろって、死んじゃいないよは」

「ああなんだ良かっ……良くねぇよ」

「だって生身だから良いんだろ?」

「何言ってんのこの亡霊!成・仏!」

「グフゥ!なんて重いコブシだ!」

「ノリ良いなお前!ぅおりゃ!」



もいっちょ!とか言って古傷をえぐるように上から何回か追い討ちをかけると威鞘はその度に 変な声を出した。すっげぇ楽しい。
こんな玩具なかったっけかな?ムギャって鳴くやつ (え?悪趣味?なにそれ美味しいの?)



















「実は俺此処の神様なんだよ」


威鞘が急に話し出したハナシはとっても突拍子がなくて俺はもうしらけた反応 (あーそうなの凄いなぁ、とか)だけしか出来なかったけど、威鞘はいたって自慢げに 頷いた。
こいつってきっと人の話聞かないタイプだよな。でも綺麗だからモテるんだよ。


「神様?威鞘が?」

「そ、言霊の神様」

へぇすごいかみさまだねーーーー…で結局何なんだよ」

「単刀直入に言えばお前の体貸してってコトだ」

「常識を最高に無視してるな お前の単刀直入は」

「ようするに、俺がお前に入って――」

「え?何言ってんの話聞けよコラ」


俺の忠告も甚だ無視して威鞘は一人悦に入っていた。
その機を測って俺は一歩下がったけれど、 何やら恋をしている少女並にウキウキしているように見えるのは俺の見間違いじゃあないだろう。


「んで、お前が此処に残ってる間に俺は外に…あ、でも待てよ――」

「いやまず俺は了承してねーだろ」

「だよなー!お前が暇になるよな!」

「そういう危ねぇ考えやめたほうがいいぞ」

「そうだ、危ないな!流石に怪我はさせらんないよな〜うん」

「オイコラ違うって。何だその何かを悟ったような顔」

「でもな俺の力貸したげるから!安心しろよ!」(超イイ笑顔)

「オイお前どうしちゃったのよマジで」


どうやらこの神様、生身の人間が来たことが物凄く嬉しいらしい。 俺の目の前をうろちょろ行ったり来たりして、何かの計画を立てている。 なんか、なんだ、なんなんだ、この神様。女子高生か。頭大丈夫か。 俺が本当に心配し始めるのと威鞘が『そうか』とお決まりのポーズ (あの手でポーンてするやつ)をしたのはほぼ同時だった。
俺としてはこの会話が成り立っていないことに早く気付いて欲しい。


「じゃんじゃじゃーん」

「あ!いつのまに」


そういう威鞘の手には俺の(強調)BASARAが握られていた。再び強奪されたらしい。 バッと自分の鞄を見たけど、確かに俺の(強調)BASARA が無くなっていた。取り返そうとして威鞘を見た俺と威鞘の目線はばっちりと合った。 キャッ、とか言ってられねぇ。つか、俺ぁそういうこと言うキャラじゃねぇか。 俺より幾分か背の高い威鞘は、目線を合わせたまま俺の目のまで僅かに膝を折る。 視線を合わせようとしているみたいだが、屈辱だ。俺は迷子のお嬢ちゃんではない。


〜いいか?俺の目を良く見ろ」

「目を…なんでだ?」

「いいから じっと 見ろ」


威鞘はなるべく俺の目にソフトが見えるようにしてゆっくり、はっきり、呟いた。
とたんに金縛りにあったときみたいに、頭のてっぺんから爪先までゾォっとする異様な感じがして 俺は否定の言葉だけを紡ぐ様、侵食中の脳をフル回転させた。
なんか、思うように目が動かなくて気持ち悪い。







「お前は この中の 一部 だ」







そうだ、洗脳だ。
こんな風にゆっくり言い聞かせるのをテレビで見たことがある。 こうやって言い聞かせて脳みそに刻むんだ、確か。サブリミナルってやつだろう。 おお、てことは今の俺はなにか刻まれてるってことなのか。 そんな風に考えてても盛んに動くのは思考回路だけ。 脳から四肢に命令がいってないみたいに全部、全所、全体、重い。 それにくわえ目も自由にならない。 威鞘とBASARAだけが視界に入っている。 つか、上手く瞬き出来ねぇ。目がァァァァァ俺のドライアイがァァァァァ!

なんでだ。って俺は自問自答した。

最初に気味が悪いって思ったときになんとかしてればよかったんじゃねーか。
だったらこんな不思議体験なんかせずにすんだんじゃねーか。
アンビリーバボーになんなくてすんだんじゃねーか。

それにいま威鞘が言った『この中の一部』って、何のことだよ。
一部ってことは、いち人間ってことなんだろうか。
それともそのソフトのプラスチックの一片?
(流石にそれはありえないと思うけどな)

もしかしたら、あっちに行く、とか?
あっちに…BASARAの世界に行くなんて事有りうるんだろうか。
でも俺の体を欲しがってる威鞘の事からして考えるとそれが一番考えられる論だ。
(そんなの、相手は人工の物なのに、ありえねぇ)

でも、いや、まて、ちょっと待てよ、だとしたら俺はどうなって―――